やり直しの天才少女は、隠れた天才をあつめる
 階段の踊り場へ向かう途中の廊下の壁。

 なぜかそこでふと、私の足は止まった。
 横を見る。
 不思議と、壁に飾られている巨大な絵画に視線が吸い寄せられる。

 絵の横には銘板(めいばん)があるけど、『在校生寄贈(きぞう)』と書かれているだけで、誰が描いたものかは分からない。

 青、紫、黄色、緑――。
 いろんな色が重なり合っている。

「⋯⋯何の絵なんだろう」

 大きな木にも見える。
 夜空にも見える。
 でも、どちらとも言い切れない。

 いつもはこの絵の前をただ通り過ぎていたのに――。

「――また会えたな」

 突然そんな声がして、ふと視線を下げる。

 絵画の前の床。
 そこに見覚えのあるぬいぐるみが鎮座(ちんざ)していた。
 私はそのぬいぐるみを指差し、思わず叫ぶ。

「⋯⋯あれって夢じゃなかったの!?」


「夢やないで。あんたが学校の公式キャラクターを決める対決で負けたんは紛(まぎ)れもない事実や」

 そのぬいぐるみは容赦なく現実を突きつけてくる。

「でも、あのままじゃ、この学校が『どうせ無理』って諦めるのが当たり前の場所になってしまう気がした。せやから⋯⋯時間を巻き戻したんやと思う」
「⋯⋯思う?」
「うちにも、よう分からんねん。ただ――」

 ぬいぐるみのおでこの星が、キラッと光る。

「今度こそ、あんたに勝ってもらわなあかん。そんな気がするんや」
「――私に勝ってもらいたい?」
「うん。そうすれば、未来が変わる気がするから」

 ぬいぐるみは力強く頷く。

(私が勝てば―――未来が変わる?)

 分からないことだらけだし、ぬいぐるみは喋り出すし、時間まで巻き戻っているというのに⋯⋯。

(なんかすっごくワクワクしてきた!!)

 気づいたら、私はそのぬいぐるみに問いかけていた。

「ねぇ、あなたの名前は?」

 すると、今度はそのぬいぐるみが星の光を宿した大きな目をパチパチと瞬(またた)かせた。

「あんまり驚かへんねんな」
「確かにびっくりしてるけど、もう一回勝負できると思ったらワクワクしてきて」

 笑ってそう言うと、そのぬいぐるみは呆れたように目を細める。

「ほんまに勝負が好きやねんな⋯⋯」
「うん。だって私は天才勝負師だから」

 ニッとそのぬいぐるみに笑いかけながら、私は名乗った。

「私の名前は天野冴(あまのさえ)。よろしくね」
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