恋のメンテナンスは必要ですか?
第三十六話 「女性」
年明け。
出勤すると歯科は休みの間に痛みを我慢していた患者で大忙し。
急患に溢れ、予約という言葉はあってないようなものだった。
年が明けてからの翔との時間は朝の送迎と夜の食事がたまに合うくらいで。
自分の知らない彼の時間を想像すると少し不安になったりもしたけれど。
寂しさを感じつつも、『今は凄く忙しいけど、三月前には落ち着くから』という翔の言葉を信じ、今だけだと割り切って過ごした。
そんな日々を過ごしているうちに一月は終わり、二月。
今日は翔の定期検診の日だった。
*
「背中あげますね。うがいしてください。」
メンテナンスを終え、背もたれをあげる。
カルテを書き終え首元につけていた翔のエプロンを外した。
「お疲れ様です。次も二ヶ月で良かったですか?」
「あー……ごめん、次は三ヶ月後にしてもいいかな?大丈夫だとは思うんだけど一応予定にゆとりを持っておきたくて」
「わかりました。……仕事ですか?」
めんどくさい彼女だと思われるだろうか。
でも、気になってしまった。
気づかれないように胸の奥に不安を押し込む。
「……うん。」
翔の返答にはっきりとしないものを感じながら、「わかりました」と笑顔で返した。
上手に笑えているだろうか。
自信が無い。ああ、嫌だなと思う。
疑いたくないのに、何かあるんじゃないかと疑ってしまう自分に嫌気がさしそうだった。
「今日はこれでおしまいです。お疲れ様でした。」
いつも通り仕事をこなし、胸の奥の不安がバレないように早めに。
翔を受付に案内するため扉を開けようとした。
「……彩」
翔は彩を呼ぶ。
その声は歯科衛生士としての彩ではなく、彼女としての彩に声をかけているのがわかった。
「今日の夜、一緒に食事できそうかな?」
なんてことない、食事の誘い。
一緒に暮らしているんだから食事なんて当たり前のようにしていることなのに。
最近は翔との間に隙間のような寂しさを感じていたからか。
その一言で口元が緩んでしまう。
「はい……!」
翔の言葉に笑顔で返す。
きっとその笑顔は、自分が思っている以上に締まりのない顔だったと思う。