恋のメンテナンスは必要ですか?
*
翔を受付に送り、診察室を次の患者のために片付ける。
やることを終えて受付に戻ると精算機から垂れ下がる領収書が目に入った。
「あれ、領収書取り忘れですかね?」
「うん?」
受付業務をしていた三樹は顔を出して彩から領収書を受け取る。
少し見つめてから「あっ」と短く声を上げた。
「本田のおじちゃん、奥さんに領収書持ってくるように言われてるのにまーた忘れて!」
「本田さん忘れて帰ると毎回電話かかってきますよね。まだ外に居るかな……ちょっと見てきます」
「お願いー」
三樹から領収書を受け取り、足早に外に出た。
周りを見回してみても本田のおじちゃんは見当たらない。
もう帰ってしまったかと諦めて中に戻ろうとした時だった。
目の前を通った四つのリングが銀色に輝く車。
見覚えのある車に目が奪われた。
一瞬だったのに、目の前の映像が頭にこびりつく。
助手席に座る綺麗な女性。
女性の隣で運転する男性は
翔だった。
「え……?」
声が漏れる。
その間に車は去ってしまった。
彩が外に出てきていると思っていなかった彼は見られていたとは思ってもいないだろう。
嫌な予感が体の熱を奪っていく。
見間違いかもしれない。きっとそう。
(翔さんが他の女性とだなんて……)
考えたくもない。でも、もしそうだったら……?
ネガティブな考えばかりが頭に浮かんで彩の心臓を締め付ける。
感情を堪えると目元に力が入った。
(……とにかく今は仕事しないと)
考えることをやめることはできなかった。
でも、無理やり押さえ込む。
自分の思考を放棄するように、彩は仕事に打ちこんだ。