恋のメンテナンスは必要ですか?
第三十七話 「ありがとう」
信じたくない光景を見てから数日が経っていた。
見てしまった当日も結局、翔は仕事が忙しくなってしまい共に食事をすることはなかった。
その後もすれ違いは続き、モヤモヤとした黒い気持ちが彩の心を占領する。
夜中に帰ってきた翔の足音に気付いても顔を出して声をかける勇気は出なくて……。
苦しい思いは募るばかりだった。
*
「はぁ……」
仕事の休憩中。スタッフルームの端で額を机にくっつけてため息を吐く。
最近ちゃんと寝られていないからか今日は朝から頭が痛い。
ため息の理由はそれだけではないけれど……。
三樹を含め他のスタッフは昨日のドラマの話題で盛り上がる中、樹だけは彩の方を見つめ近づいた。
「今にも死にそうって顔してんな?」
かけられた声に反応して視線を送る。
見つめる先では樹が眉を片方だけあげて苦そうに笑っていた。
「……実際に死にそう」
「へぇー、それは大変だ。」
「はぁ……」
「……」
樹の言葉に怒りもしない彩を見て樹は考えるように視線をずらし、前を見つめた。
「……彼氏がいるやつを前みたいに二人きりの食事には誘ってやれねぇけど」
樹は小さめの声で呟く。
「スタッフルームの角で相談に乗るくらいなら神崎さんも怒らないだろ。」
彩は瞼を瞬かせ、顔を伏せた。
横目で静かに微笑みながら気遣ってくれる樹に、涙が出そうになったから。
「……この前、本田さんの領収書を届けようと外に出たら——」
樹の優しさに甘え、彩はゆっくりと事情を話し始める。
この話を樹にするのはズルいと思ったけれど。
自分一人で抱え続けることに彩は限界を感じていた。