恋のメンテナンスは必要ですか?
第五話 「神崎翔」
高層ビルの最上階のレストラン。
そこで開かれた開業記念パーティーは父さんが俺のために開いてくれたもの。
「いやー翔くんも大きくなりましたなぁ」
「ありがとうございます」
父が呼んだ各業界の大御所たちに次々と捕まり、作るのにも疲れた笑顔をまた貼り付ける。
心の中では離れたいと思っていても決して口に出してはいけない。
これも仕事の一環なのだから——。
二十歳の頃、大学に通いながら、トップソムリエの父が経営するレストランで修行。実務経験を積み、卒業と同時にソムリエの試験にも合格した。
卒業後も変わらず父のもとで働き、実家である母の会社にも並行して勤務を続けて。
二七歳になって、『会社を引き継ぐまで』という約束で自分のワインバーを開業。
母の会社は大企業なだけあって覚えることも多かったが無理ではなかった。
先の未来、自分が引き継いでいかなければならない会社。今後はソムリエとして技術を磨きながら店を経営、実家の後継者としても学んでいく。
大変でも毎日が充実していた。
「もう翔くんも27歳だろう?どうかね?お相手の方は」
幾度となく聞かれてきたお決まりのセリフにうんざりする。
煩わしい気持ちを気取られることなく翔は輝くように笑った。
「そうですね。いつかいい相手に巡り会えればと思っています。」
「そうだろう?なに、今お相手がいないのであればうちの娘を——」
「悪いね。その前に私が用意してしまったんだ」
そう言って二人の会話に割り込んだのは父の進だった。
父の言葉を助け舟と思い、翔は話に乗っかる。
「……初耳だな」
「そうだろう。ずっと考えてはいたが、やっと先方のお父さんと話がついてね」
「へぇ……それは残念だ。娘にも頼まれていたんだがね。先約がいたのなら仕方ない。」
「悪いね。お詫びにうちのレストランの——」
(……助かった)
めんどくさいやり取りを繰り返すのはうんざりだ。
パーティーのたびに女性を紹介されてきた翔は辟易としていた。
毎回断るだけにもいかず、何度か紹介された女性にも会ったが、彼女たちは共通して翔の顔、家柄、お金しか見ていない。
それをわかっていた翔は決まって同じ行動、言葉を繰り返し、幻滅させる。
パーティーとスーツには似合わないカジュアルな上着や平凡な格好。
そして言った。
——「居酒屋に行きませんか?」と。