恋のメンテナンスは必要ですか?
第六話 「思惑通り」
「イヤです。」
彩は体をゆらゆらと揺らしながらもはっきりと答える。
彼女の拒否に翔は目を大きく開けてパチパチと瞬いた。
「帰り、ます。」
揺れる体を無理やり立たせて歩き出す。
驚き、固まっていた翔は慌てて立ち上がり、訂正した。
「彩さん?!急にどうし……何か勘違いを——!車で送って行きたいけど顔色が悪いから、知り合いのホテルで休んでから帰るか泊まったらって意味で……俺は別の部屋に泊まるよ!?彩さんが落ち着いたらうちの車で送っていくつもりで俺は——」
焦った顔で彩に言葉を伝える翔。
彩は回らない頭で何とか理解するも、再度ベンチに戻る力もない。
「それでも……帰ります……明日仕事……それに」
彩は強く言う。
「一回でもそんな財閥のお嬢様みたいな体験したら、今まで幸せと感じていたものがちっぽけに見えてしまいそうで怖いです……」
今の生活に満足している。
中途半端に別世界を知ってしまうのは平穏が乱れそうで嫌だった。
翔は彩の言葉にまた驚き、目を丸めるが、最後には愛おしそうに彼女を見つめた。
「分かったよ。今車呼ぶから、せめて家まで送らせて?元々その予定だったのだから」
「……ありが、とう……ございま、す……」
彩は気が抜けたように翔に寄りかかる。
翔は彩を優しく受け止め、お姫様のように抱き上げた。
限界だったのか、彼女は腕の中で眠っている。
「……気に入らないな」
翔は困った顔で笑う。
「父さんの思惑通りだ。」
公園の横に高級車が停まり、ハザードのランプが辺りを断続的に照らしている。
翔は彩を抱いたまま車に乗り込んだ。