恋のメンテナンスは必要ですか?
樹が怒ってくれたから、彩は冷静になれた。
一人でこんな仕打ちを受けていたら落ち込んで明日の仕事にも影響していたかもしれない。
「多分、気に入らなかっただけだろうから……とりあえず様子を見るよ」
「……院長に言えよ。こんなことするのアイツしか……」
「樹。」
彩は落ち着かせるように低い声で樹を止める。
樹を見つめ苦く笑いながら。
「怒ってくれてありがとうね。」
彩の言葉に樹は動きを止めた。
悔しそうに歯を鳴らすが彩の意思を尊重して怒りを鎮める。
「……次なんかあったらすぐ俺に言え。一人で抱えんなよ。」
「うん。ありがとう」
彩はポケットから絆創膏を取り出し、指先に貼る。
取手に入れられた画鋲も外し、ロッカーを開けると荷物を取り出した。
「よこせ。」
「ちょ!?返して!」
取り出したばかりの彩の荷物はヒョイっと隣の樹に奪われる。
取り返そうとするが樹の高身長に彩が勝てるはずもなく、ぴょんぴょんと手を伸ばしても届かない。
「ちょっと!ゔっ!」
取り返そうとあたふたしていると誤って樹の胸にぶつかってしまった。
勢いよくいったせいで鼻先が痛い。
自分の胸で鼻先を押さえている彩。
樹は顔をほんのり赤く染めながらも彩の肩を抱いた。
「え、なになに!?」
「帰るぞ。送ってく」
「別にいいよ!電車で帰れるし!」
「車のがはえーだろ」
樹の言葉に言い返す言葉もなく、「うっ……」と黙る。
「わかったから、とりあえず着替えだけさせて」
「あ。」
すっかり忘れていたのか、樹は気まずそうに荷物を彩に手渡した。荷物を受け取り、仕事着から私服に着替え終えると樹の元に戻る。
「いくぞ」
「ちょっ……逃げないってば」
階段を降りて駐車場に向かう時も樹は彩が逃げないように抱き寄せたまま。
逞しい腕で自分の体を引き寄せる樹に、なんだかむず痒い気持ちになった。