恋のメンテナンスは必要ですか?
 *


「……なんだよお前」
「人の家にずけずけと上がり込んで。家では靴を脱ぐことも教わらなかったのか?」
「っ……」

 翔の堂々とした態度に恭平が僅かに怯む。
 チッ!と舌打ちを鳴らすと男は無理やり彩の腕を掴んだ。
 
「行こう。彩さえいれば、他はどうでもいい」
「嫌!っ離して!」

 痛みに叫んだ瞬間、恭平の手が彩から離される。
 そのまま強く翔が彩を抱き寄せた。

 
「彩に触るな」
 
 抱き寄せられ、驚き、揺れる瞳。
 でもそれ以上に。

 ——安心している自分がいた。


「邪魔を……するなぁあ!!」
 恭平は狂ったように叫ぶ。
 
「彩のお父さんを殴った傷害罪、家に同意なく侵入した住居侵入罪、警察による禁止命令に違反したストーカー行為。今わかるだけでもこれだけの罪状がお前にはつけられるが、今後どうやって彩と生きていくつもりだったんだ?」
「ハッ。そんなのバレなければどうにでもなんだよ!」
「『バレなければ。』なんとも杜撰な計画だな」
「っ……」

 抱きしめられている手に力がこもる。
 彩を抱きしめていることを思い出し、翔は手の力をすぐに緩めた。
 恭平は線が切れたように叫ぶ。
 
 
「うるさい!彩は……!彩は俺が助けてやったんだ!だから俺のものだ!!!」
 
 
「……冗談はそこまでにしろよ」
 翔は怒りを滲ませた声で低く、はっきりと言った。

 
「彩は誰のものでもない。彩の人生は彩だけのものだ。」

「全ての決定権は彼女にあるし、彼女自身が誰かのために傷つくべきではない。お前に彩の生き方を決める権利など一抹たりともありはしない。」

 
 翔の言葉は彩の胸の奥に重く響く。
 
 いつからか、傷つくことが当たり前に感じて。
 我慢することに慣れていた。
 とにかく事を大きくしないようにと耐えて。
 人の目と逃げることばかり考えて。

 自分がどう生きたいかなんて忘れていた。
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