恋のメンテナンスは必要ですか?
第二章 ライバル
第十六話 「覚悟」
(一緒にいるって一時的にそばにいるってことだと思ってたのに……まさか泊まりだなんて)
自分が思っていたのと違う展開に彩は頬を赤くする。
水平基調のデザインに洗練されたラウンジのような雰囲気の車内では、翔の趣味なのかおしゃれな洋楽が流れている。
ドラマティックな空間に彩は恥ずかしくなって顔を俯けた。
「……嫌だった?」
翔は道路の先を見つめながら彩に聞く。
「えっ?!」
「いや、なんだか険しい顔をしてるから……もし嫌なら今から彩さんのホテルを取って——」
「い、嫌じゃないです!!!」
誤解を解こうと彩ははっきりと叫ぶ。
翔は一瞬驚いてこちらを見つめたがすぐに顔を戻した。
「なら、いいんだけど」
翔は彩の声に困ったように笑う。
彼の表情に訂正しなくてはという気持ちに駆られて彩はポソポソと話し始めた。
「その……お付き合いしていない男性の家に泊まるのは……初めてで……き、緊張してしまって……」
たどたどしく話す彩の頭からは湯気が出てしまいそうなほど、彼女は顔を赤らめていた。
赤信号にそんな可愛らしい姿を見てしまい、翔は耐えられずに口元を隠す。
その耳は紅潮し、彼がどんな感情を抱いているのか一目瞭然だった。
「そ、そっか」
「………………」
「………………」
二人の間に流れる気まずい空気。
その空気を先に破ったのは翔だった。
「……嫌がることは絶対にしないと約束するよ」
顔を上げて翔を見つめた。
前を向いて道の先を見つめる彼の顔は真剣で。
「……はい」
彩の胸の奥がまた、強く脈を打つように鼓動しはじめる。
「……会うのは1週間ぶり、ですね」
「うん。……会いたかった。」
「っ……」
自分ばかりドキドキさせられたのが悔しくて、少し意地悪をしたくなった。
「翔さん、さっきは彩って呼び捨てだったのに」
彩の言葉にぎくっと肩を跳ねさせて、翔は恥ずかしそうに呟く。
「言うなよ。思い切って呼んだはいいものの、悩んで戻そうとしたのに……」
大人の中に溢れ出る愛らしさがとても愛おしくて。
「ふふっ。彩でいいですよ」
「……彩」
翔から熱を帯びた声で名前を呼ばれ、無性に恥ずかしくなる。
意識して赤くなった頬に気づかれないように、
彩は窓の外に流れる街並みを見つめ誤魔化した。