恋のメンテナンスは必要ですか?
 *


 進との会話を終え、彩は部屋で荷物を整頓し始める。

 ダブルベットの横には洗礼された曲線を描くドレッサーが置かれていて、部屋の隅に置かれた間接照明は空間をドラマチックに彩る。
 部屋の中にある扉を開けるとハンガーパイプのついたウォークインクローゼット。
 家から持ってきた服をかけてもかなり余裕が残る。

「本当に、住む世界が違うって感じ……」


 家の中でさえそう思うのに、翔の全てを知ってしまったら。
 
 想像したらざわざわとした気持ちが湧き上がってきて、
 締め付けられるような感覚から逃げるように、手を動かした。


 *


 整頓を終えて翔のいるリビングへと戻る。
 扉を開けるとダイニングテーブルではノートパソコンに向き合いながら翔が真剣な表情で打ち込んでいた。

(メガネ……)

 初めてみるメガネ姿に不本意ながらもときめいてしまう。
 もう胸の高鳴りの頻度が多すぎて自分でも訳がわからない。

「片付け、終わりました」

 声をかけると翔はメガネ姿でこちらを向く。

「お疲れ様。ごめん、ちょっと仕事だけ片付けてて」
「全然大丈夫です。あとその……すみません」
「ん?」

「実は……朝からなにも食べていなくて、買い物に出かけてきてもいいですか?」

 朝から色々ありすぎて食事のことを忘れていたが、落ち着くと次第にお腹も空いてきて。
 ちょっと、気持ち悪い。

「えっ!?あ、気づかなくてごめん!」

 彩の言葉に気づいた翔はメガネを外し、焦って立ち上がった。
 彼は時計を確認すると申し訳なさそうに眉を下げる。

 
「十八時……ごめん、こんな時間までなにも食べていなかったなんて」

「大丈夫ですよ!?さっきまではお腹は空いていなかったんですけど、落ち着いたら急にお腹が空いてきて……わぁ!!」
< 61 / 121 >

この作品をシェア

pagetop