恋のメンテナンスは必要ですか?
「樹、ありがと——」
「おはようございまーす」
言いかけたところで扉が開く。
振り返ると扉から入ってきたのは杏菜だった。
「おはよう」
「おはよう杏菜ちゃん」
「……おはようございます」
翔が歯科にきたあの日以来、杏菜の態度は明らかに変わっていた。
見覚えのある態度に、また始まっちゃったなぁ……とまだ働いてもいないのに少し疲労を感じる。
杏菜に冷たい態度を取られるのは二回目だった。
一回目は——彼女がこの歯科に入社してきた時。
『三上杏菜です。よろしくお願いします。』
初めての印象は今時の可愛い子。
はっきりもしていそうな顔立ちで、別に悪い印象はなかった。
その日は樹が遅刻してきた日で。
杏菜の印象が変わったのは彼女が樹に出会ってから。
『かっこいい……』
彼女の熱のこもった視線に嫌な予感がしたのを今でもはっきりと覚えている。
あれ、午前中の杏菜ちゃんどこいった?とスタッフ全員が思っただろう。
彼女はわかりやすいほどに愛らしい態度を樹に向けた。
だからといって私たちには冷たくなったという訳でもなく。
人によって豹変する、というよりは気持ちが態度に出やすいのかもしれない。
『樹先輩〜これって——』
『……何?』
対して樹は氷のように冷ややかで。
もう少し優しくしなよ、と私が思うほど。
こんなやつに惚れてしまった杏菜ちゃんが不憫でならないと思った。
樹は自分に好意全開な女子が嫌いだ。
モテ男ならではの悩みなのか、昔居酒屋で『俺は媚び売ってくる女が嫌いだ!』と叫んでいた。
まぁ私はその嘆きを『へぇ〜たいへんだぁー』と棒読みで流したのだけれど。
『それは俺の担当じゃないから。受付の三樹さんに聞いて——彩!』
(げっ!今はやめて!)
樹は嬉しそうな顔で彩に近づき話しかけた。
その表情は杏菜に向けていた顔とは全く違うもので……。
杏菜は気に入らなかったのか彩を強く睨む。