恋のメンテナンスは必要ですか?
(ああああぁぁ………………)
女子特有の意思疎通でわかる。
あれは確実に。
気に食わないと思っている。
それから。
杏菜はわかりやすいほどに私にだけ冷たくて。
毎日何かしらの異変が起きた。
ロッカーの中が絶妙に香水臭くされていたり、愛用のボールペンがなくなっていたり。
仕事に支障がなければある程度我慢はできるが、杏菜はそのレベルを超えてきた。
『杏菜ちゃん。流石に私の患者さんの予約を勝手に動かしちゃうのは困るなぁ』
『……』
歯科衛生士にはそれぞれの担当があり、患者さんによっては指名をされる方もいる。
杏菜は彩受け持ちの、それも指名で予約してくださっている患者さんの予約を勝手に自分の枠に入れていた。
『予約は先生の治療とか、その後の動きとかを見て入れてるから……それにこの患者さんは私指名で来てくれてる人だから……』
俯く杏菜を優しく嗜めるが、彼女は聞いているのかいないのか。
『……葉山先輩ばかりずるいです。』
『えっと、どこら辺が……?』
『この患者さんだってかっこよくていい人で!なのに彩先輩指名で!樹先輩だって彩先輩のことばかり見て!』
(ええぇ……)
あまりに子供な理由にどう返すべきか。
困り果て、口が閉まらない。
『えっと……とりあえずこの患者さんは既婚者で奥さんも私の担当なの。あと樹は大学からの繋がりで仲が良くて。それだけで』
『っ……それだけの人のために、あんな風に!怒ったりしないです!』
ちょっと彼女が何を言いたのかよくわからなかった。
『えーっと……』
『ううっ……』
杏菜の目がうるうると潤み出す。
一つ下の後輩を泣かせた先輩なんて外聞が悪すぎる。
彩は焦ってポケット探り、隠れて食べようとしていたチョコレートのおやつを差し出した。
『甘いもの!甘いもの食べたら幸せな気分になれるよ?!』
赤い箱にさまざまなメッセージの書かれたお菓子は彩のお気に入りだった。
杏菜は泣き顔でじっとお菓子を見つめるとおもむろに受け取り、口に運ぶ。
『ありがとう、ございます……』
(……ちゃんとお礼言うんだ)
一つしか変わらないのに、幼さを感じさせる表情にクスっと笑った。
(悪い子じゃないと思うんだけどなぁ…………)
その後、いつの間にか杏菜からの嫌がらせは止み、それなりに仲良くなれたと思っていたのに——。
「やっぱり、イケメンはいいことを引き寄せないかも……」
彩は疲れた顔で診察室へと向かった。