恋のメンテナンスは必要ですか?

第二十三話 「好き」


 何から話したものか。
 彩は頭を悩ませた。

 翔さんのことは……そんなに話さなくてもいいよね。

「あー……うーん……」
「そもそも、体調不良ではないんだろ?」
「うん……大学の時の元彼覚えてる?」
「ああ。でも、落ち着いたからもう大丈夫って言ってなかったか?」

 彩は自身の身に起きた出来事を樹に話す。

 実は元彼からのストーカー行為が再開していたこと、それが原因で一人暮らしではなく実家に戻っていたこと。
 休んだ当日、元彼が朝から自宅前に待ち伏せしていたこと。


「……マジかよ」
「危険を感じて院長に相談して休ませてもらって、様子を見てたけど家にまで入ってきて。凄い怖かったけど知り合いが助けてくれたから今ここにいる……」
「…………」

 あまりの深刻さに樹は何も言えなくなった。
 思い悩むように額に皺を寄せ、俯いたまま黙っている。

「そのせいでお父さんが頭をぶつけて今は入院してる。お母さんもそこに付き添ってて」

「一人だとまた何が起こるかわからないから、今は知り合いの家に泊まらせてもらってるよ」


 彩は最後に「そんな感じかな」と言葉をつけ加え、笑う。
 そんな彼女の笑みは苦しげに見えたのか、樹は目を彷徨わせる。

「……その知り合いって……」
「ん?」

 思い切るように樹は聞いた。

 
「その知り合いって男か?」

 
 樹の問いに驚いた。

 知り合いと言っただけでなぜそれが男性だと分かったのか。
 
 (……まさか朝の送迎を見られてた?)

 彩の胸の奥に無意識と焦りが生まれ、返答を吃(ども)らせる。
 

 別に隠すようなことでもない。
 素直に言えばいいと思う。
 悪いことは一切していないのだから。
 
 でも、友人から変に思われたくない思いが言葉を濁らせた。
 彼氏でもない男性の元に泊まり甘えているだなんて……。
 

「……えっと……うん」

 樹は気まずそうにしている彩を見つめる。
 話すことを躊躇するような態度、樹は焦燥感に駆られた。
 
「彩、俺は……」

 
 〜♫


 樹が彩に想いを告げようとした時、彼女のスマホが着信を告げる。

「ごめん」

 気を遣った彩がスマホをしまおうとすると樹がそれを止めた。

「……いい、急ぎかもしれないだろ?出てやれよ」

「うん、ありがと」

 鞄に入れかけたスマホを覗き込む。
 そこに表示された【神崎翔】の名前に動かした指が止まった。

(…………)

 一瞬考えるも指を動かして電話に出る。


「もしもし」
『彩、急に電話してごめんね。』
「大丈夫です。どうしました?」
『今買い物をしてるんだ、必要なものがあったらついでに買って——』

 彩は翔からの電話に微笑みながら答える。
 通話する姿に自然と樹は彼女から目を逸らした。
 樹は目の前の液晶を見つめる。

 狭い個室ではスマホから聞こえる声が僅かに漏れて彼の耳に届き。


「………………。」

 その声が男性か女性か、わかる程度には音が漏れていた。
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