恋のメンテナンスは必要ですか?
……先輩の言葉に意味を感じてしまったからだ。
素直に受け取るのは癪に障り、杏菜は躊躇しながらも言い返した。
「……顔が良ければ、ある程度は我慢できます。顔が良ければそれだけでいいじゃないですか」
「人それぞれ考え方はあると思うから、間違ってるとは思わないよ。でも、見た目がいいからってなんでも耐えられるとは思ってほしくないな」
遠い昔の自分を思い出し自然と眉が下がった。
どうか、この後輩にはそんな思いをしてほしくないと思う。
こんなことを思うのはお節介だと杏菜に言ったら怒られそうだ、と彩は心の中で笑った。
「杏菜ちゃんって素直だよね。素直に感情を出したり言ったりできるのは杏菜ちゃんの長所だと思う。あ、でも画鋲は痛いからもうやったらダメだよ?」
「……なんで」
杏菜はカルテを触るのを止め、釣り上がった目で彩を睨む。
「なんでいつもそうやって軽く流せるんですか。」
杏菜は迷っているように瞳を揺らした。その姿は困っている様に見えて。
目は吊り上がり、きつい口調なのに……何かを後悔をしているような気がした。
彼女からの問いに彩は苦しげに笑う。
「流せてないよ。全然流せてない。頭の中では悶々と考えちゃうし、気にしちゃう。いつの間にか我慢するのが得意になっちゃっただけ」
彩がそう言うと杏菜は戸惑うような表情で顔を背けた。
素直に感情を出せる子だからこそ、彼女自身も自分の感情をどう整理したらいいのか悩んでいるのかもしれない。
彼女は小さく、ポツリと呟く。
「……樹先輩が本当に好きでした。冷たくされても脈がないってわかっても。……でも、私のは絶対叶わない恋なのに、樹先輩の想いにも気づかず他の男の人と一緒にいる彩先輩を見て、本気で腹が立った。」
杏菜の瞳が潤み、声が震える。
「私が欲しくても手に入れられないものを彩先輩は……」
杏菜は耐える。
絶対に泣かないという彼女の意思が涙を止めていた。
「……私、仕事辞めます」
「え?!」
杏菜の突然の告白にぎょっとした。