恋のメンテナンスは必要ですか?
ハンドルのコントローラーへ突っ伏した樹に目をやると「腹減った……」とぼやいていた。
悔しがったりお腹がすいたり。自由な同僚に大学時代を思い出して笑みが溢れる。
「コンビニでもいく?あ、店のがいい?」
「もうコンビニでいいわ……なんでもいいから腹に入れたい」
いつまでもレーシングゲームくらいで落ち込む樹に彩は呆れた。
でも、いつのまにか前と変わらない空気に心が落ち着く。
彩は項垂れる彼の腕を掴み、出口へと引っ張った。
「ほらーいくよー」
いつもの雰囲気。特に気にすることなく引っ張るためだけに腕を掴んだだけだった。
彩が樹の腕に触れると彼の体をビクッと体を震わせる。
自分の腕を引っ張る彩の背中を見つめ、焦がれるような視線を送った。
「…………彩。」
店の入り口を出て、歩き進んだ駐車場だった。
もう少しで樹の車だというのに声をかけられ振り返る。
「?どうし——」
「俺じゃダメか?」
彩をまっすぐ見つめる樹の瞳が不安げに揺らめく。
じっと答えを待つように彼女を見つめ、自身の腕から彩の手を取り、握った。
「彩の彼氏に……俺じゃ、なれないか?」
……唇が開いたり閉じたりを繰り返した。
樹から伝わってくる熱を帯びた視線に彩の瞳も揺らぐ。
「この前話した話。俺の家に来るかって言ったのも冗談じゃない。」
「彩の言葉を聞かせてくれ。」
考えた。
樹に告白されてからずっと考えてた。
自分にまた恋愛なんてできるのか、踏み出す勇気があるのか。
でも、恋愛が出来るか、踏み出せるかどうかなんて自分の意思でどうにかなるものじゃなかった。
気づけば惹かれていて。ダメだと思っていてもその人のことばかり考えてしまう。
「……ごめん。」
まつ毛を下に向け、瞳の奥を揺らしながら樹に言った。
自分の気持ちはどこを向いているのか。もう気づいていたから。
「樹とは付き合えない。好きな人が……いるから」
落ちるように。
二人の手がゆっくり離れる。
間には沈黙が流れ、少し離れた道路から車の走行音が聞こえた。
樹が大きく息を吸い込んで吐く音が聞こえ、彩は俯いていた顔を上げる。
「わかった。」
今にも泣き出しそうな切ない笑顔で、彼は答えた。
何事もなかったように。彩から顔が見えないよう、樹は足早に歩き出す。
「送ってく。あ゛ー寒いな!」
いつも通りに振る舞おうとする背中に罪悪感を感じた。
「樹……ごめ」
「謝んな。」
彩の言葉を察して樹は強く止める。
「俺は彩が好きだけど、彩が俺を選ぶかはお前の自由だ。謝る必要なんてどこにもないだろ。」
「……うん」
喉の奥に言葉を戻す。
樹の優しさに胸の奥がギュッと締まった。
「なぁ……これまで通り、親友ではいてくれるか?」
願うように囁く声に彩は樹の背中に向かって柔らかく微笑む。
「当たり前。変わらないよ」