『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
俺と咲良が向かったのは、冥府庁の最上部――通称「てっぺん」と呼ばれる場所だった。

 巨大な庁舎の中でも、冥府全域を覆う結界の基点が集められている特別な場所で、普段なら俺がここまで上がってくることなどほとんどない。

 最上部の扉を開けた瞬間、凄まじい魔力の圧が身体を押した。

 吹きさらしになった円形の広場からは冥府庁全体を見渡すことができ、遥か下では雪崩のように流れ込んだ魂が、未だ庁内を埋め尽くしている。

 遠くでは第一冥府門が崩れ、第二結界も大きく歪んでいた。

「……よりによって、冥府庁のてっぺんで結界魔法を展開する羽目になるとはな」

 深く息を吐きながら中央へ進み、床へ魔力を流し込む。

 淡い光が広がると、円形の床に刻まれていた古い術式が次々と浮かび上がり、咲良も反対側へ立って、俺の魔力へ重ねるように力を流し始めた。

「軍釟、第一術式から繋ぐよ」

「分かってる。第二結界の損傷は?」

「三十八箇所。中央結界への負荷も始まってる」

「三十八って……窓路、戻ってきたら絶対殴る」

「好きにして。その前に冥府を守って」

 俺が両手を広げると、足元の魔法陣が一気に拡大した。

 白銀の光が幾重にも重なりながら冥府庁の外周へ伸び、ひび割れた結界へ絡みついていく。しかし押し寄せる魂の数が多すぎて、一つ塞げば別の場所が軋み、そこを補強すればさらに別の場所へ負荷が逃げていった。

「……くそっ。これ、本当に俺たちだけで持つのか?」

「持たせるの」

「簡単に言うな!」

 さらに魔力を流し込みながら、こんな時に最も役に立つはずの男がいないことに腹が立ってくる。

 冥府庁で一番強いくせに、肝心な時に所在不明。

「……もういい」

「何が?」

「こうなったら最後の手段だ」

 
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