『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
「で、何処から来た?」

 顔を上げて尋ねると、目の前に立っていた男がびくりと肩を揺らした。

 見た目は三十代半ばくらいに見えるが、魂の姿と実際の年齢が一致するとは限らないので、そこはどうでもいい。

「……分かりません」

 またか。

 額を押さえたくなるのを堪えながら、俺は男を見る。

「自分が住んでた世界くらい分かるだろ」

「いや、それが……普通の世界だったので」

「普通って何だよ」

「え?」

「お前にとって普通でも、こっちには世界が山ほどあるんだよ。魔法はあったのか、魔物はいたのか、神は実在してたのか、それとも科学中心の文明だったのか。何か特徴くらいあるだろ」

 男は困ったように眉を寄せ、しばらく真剣に考え込んだ末、ようやく何かを思い出したように顔を上げた。

「……スマホはありました」

「先に言え!」

 思わず声を上げながら端末へ手を伸ばし、該当する世界群を絞り込んでいく。

 ほんの一言で済む情報を、どうして最初から言わないのか。こういう奴が一日に何十人、時には何百人と来るのだから、そのたびに同じような質問を繰り返していれば、嫌でも疲れる。

 これが俺の日常だ。

 少なくとも、そのはずだった。

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