『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

第三話 ――冥府庁、迷走中!? 元凶を炙り出せ!――

 家族を先に帰したあと、天界統括宮には妙な静けさが残った。

 ついさっきまで灯里と朔が走り回り、千景が笑い、親父と母さんの昨夜の大惨事について聞きたくもない話を延々と聞かされていたせいか、急に人数が減ると随分広く感じる。

 もっとも、俺としては、ようやく本題に入れるという安堵の方が大きかった。

 目の前には、死神部門長・窓路。

 こいつが昨日、死神二千五百人を丸ごと引き連れて仕事を止めたせいで、冥府庁は危うく崩壊しかけた。

 おまけに、俺の家族手当と危険手当の書類まで止めていたらしい。

 これで「ちゃんとした理由があります」などと言われなければ、本当に殴っても許されると思う。

「で」

 俺は腕を組み、窓路を睨んだ。

「話せ」

「ここで?」

「あ?」

「冥府庁に戻ってからの方がいい」

「何で」

「今回の件は、俺とお前だけで済む話じゃない。咲良様と各部門長にも聞かせる必要がある」

 理屈は分かる。

 分かるが。

「じゃあ何でここまで呼ばせたんだよ」

「俺が呼んだわけじゃない」

「母さんに転移させられたのは知ってる!」

「なら俺に言うな」

「腹立つな、お前!」

 窓路は昔からこうだ。

 必要以上に喋らないうえ、頭の中では全部組み立て終わっているくせに、こっちがそこへ辿り着くまで説明する気がない。

 しかも本人には悪気がないから、余計に面倒くさい。

 母さんが、そんな俺たちを見ながら呆れたように笑った。

「本当に、昔から変わらないわねぇ」

「母さん、さっきもそれ言ってた」

「だって変わってないんですもの。軍釟はすぐ怒るし、窓路は説明不足だし」

「俺が怒る原因の半分くらい、こいつみたいな奴だからな」

「半分なのか」

 窓路が真顔で言う。

「お前がそこ拾うな!」

 その時、俺の心へ神楽の穏やかな声が響いた。

『軍釟』

「ん?」

 思わず返事をすると、窓路がこちらを見る。

「何だ」

「いや、何でもねぇ」

 神楽の存在については、まだ冥府庁へ知らせるつもりはない。

 母さんと親父がこれまで徹底して隠してきたのには理由があるし、本人自身も表へ出ることを望んでいない。

『窓路の話、最後まで聞いた方がいいよ』

 心の中だけへ届く声に、俺は僅かに眉を寄せた。

「……分かってるよ」

『途中で殴らないようにね』

「それは内容次第」

『ほら、もう殴る気あるじゃない』

 うるさい。

 双子の兄だと分かった途端、何でこんなに俺の扱いが雑なんだ。

「軍釟?」

 母さんが首を傾げる。

「神楽?」

「まあな」

「何て?」

「窓路を途中で殴るなって」

 窓路が淡々と頷く。

「神楽は賢い」

「お前が言うな!」

 
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