『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
技術的にどれだけ凄かろうが、結論はそこだ。

 咲良が深く息を吐く。

「緑子様本人からも話を聞く必要がありますね」

 俺は嫌な予感がした。

「どうやって呼ぶ」

 全員が黙る。

 緑子は死神女王。

 普通の呼び出しで「はい分かりました」と来るような相手ではない。

 しかも今、木魂おじさんがここにいる。

 轟由羅がぽつりと言った。

「さっきの放送、使う?」

 俺は思わず笑った。

「まさか」

 咲良は真顔だった。

「使いましょう」

「マジかよ!」

 窓路が例の装置を持ち上げる。

「文面は?」

 俺は少し考えた。

 今度は嘘を入れなくていい。

 事実だけで十分だ。

「こうしよう」

 そして、冥府庁全域へ再び緊急放送が流れた。

『死神女王・緑子様にお知らせいたします。現在、木魂様が中央会議室にて吊し上げに遭っておられます。木魂様をお助けになりたいのであれば、即刻こちらへお越しになることが賢明かと思われます』

 放送が終わる。

 木魂おじさんが俺を見る。

「吊し上げ?」

「合ってるだろ」

「助けてもらうほどじゃないけど」

「じゃあ帰る?」

「それは帰りたい」

「帰さねぇよ」

 五秒。

 十秒。

 何も起きない。

「来ないな」

 高尚が言った、その時。

 窓路が僅かに顔を上げた。

「来る」

「分かるの?」

「死神界の空気が変わった」

 次の瞬間、中央会議室の照明が一斉に揺れた。

 どこからともなく、ぞわりとした黒い魔力が床を這い始める。

「……うわ」

 思わず声が漏れた。

 これは怒ってる。

 めちゃくちゃ怒ってる。

 窓路が静かに言う。

「緑子様だ」

 
< 68 / 89 >

この作品をシェア

pagetop