『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
また話が進まない。

 その時だった。

 どこからともなく、聞き慣れた声が響いた。

「まあまあ、緑子。昔から相変わらず詰めが甘いわねぇ」

 全員が振り向く。

 中央会議室の後方。

 いつの間に開いたのか分からない転移門から、一人の女がゆっくりと歩いてきた。

 深紅のドレス。

 薄いヴェール。

 そして両腕には、どういうわけか百本はありそうな赤い薔薇。

 俺は頭を抱えた。

「……母さん」

 天界統括女王・沙羅麻。

 何で普通に来れないんだ。

「頼むから説明してくれ。その格好何」

「緑子が派手に来ると思ったから」

「張り合うな!」

 母さんは完全に俺を無視し、そのまま緑子さんの前へ進む。

 緑子さんも目を細めた。

「沙羅麻」

「久しぶりね、緑子」

「何だ、その格好」

「あなたこそ」

 二人が向かい合う。

 嫌な予感しかしない。

「緑子、あなた昔から詰めが甘いのよねぇ」

「何だと」

「私より百五十年も長く生きてるのに」

 母さんはにっこり笑った。

「おつむがね」

「沙羅麻ぁぁぁ!」

 黒い魔力が一気に膨れ上がる。

 俺は反射的に結界を強めた。

「母さん、煽るな!」

「だって事実でしょう?」

「今それ必要?」

「必要よ。そもそも若返りだの魔力増強だの、子孫繁栄だの、全部一気にやろうとするから失敗するの」

 緑子さんの眉が跳ね上がる。

「失敗していない!」

「じゃあ何で冥府庁の門が壊れてるのよ」

「それは窓路が死神部門を止めたからだ!」

 窓路が静かに言う。

「それについては俺にも責任があります」

「ほら見ろ!」

「でも元の原因は、木魂様と緑子様が魂循環へ無許可で介入したことです」

「裏切ったな、窓路!」

「事実です」

「お前はどちらの味方だ!」

「冥府庁です」

 そこだけ真面目か。

 母さんはさらに楽しそうに続ける。

「それにねぇ、緑子。魔力が強ければ何でも解決するわけじゃないのよ。相性もあるし、身体の状態もあるし、そもそも無理矢理底上げすればいいってものじゃないでしょう?」

「沙羅麻に言われたくない!」

「何で?」

「昨夜、天界を揺らした女が何を言う!」

 会議室が一瞬静まる。

 咲良がゆっくり母さんを見る。

「沙羅麻」

「何?」

「その話、あとで聞かせてもらうから」

「咲良、怖〜い」

「あんたは特に気をつけて。昔から一番脱線させるの、あんたでしょ」

「そんなことないわよ」

「ある」

「即答?」

「同級生だから分かるの」

 この二人、本当に昔から変わらないらしい。

「では、そろそろ本題に戻りますよ。お二人方」

 咲良がきっぱりと言うと、母さんと緑子さんが同時にそちらを見た。

「はーい」

「……分かった」

「返事の温度差すごいな」

 俺が呟くと、咲良がこっちまで睨んできた。

「軍釟も」

「何で俺まで!」

「脱線に参加してるから」

「巻き込まれてるだけだ!」

 母さんが空いている席を見つけて腰を下ろそうとしたところで、ふと親父の席を見た。

「螺良は?」

「来てない」

 咲良が答える。

「じゃあここ座ろうかしら」

「そこ閻魔大王席だけど」

「妻だからいいでしょう」

「そういう問題じゃない」

「じゃあ軍釟の膝」

「絶対やめろ!」

 咲良が即座に補助椅子を出した。

「沙羅麻、ここ」

「はーい」

 最初からそうしてくれ。

 咲良は全員が座ったことを確認すると、円卓を軽く叩いた。

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