『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
咲良は何事もなかったかのように資料へ戻った。

「それでは話を戻します」

「戻せるの!?」

「戻すの」

 強い。

「木魂様、緑子様。魂循環へ介入した件について、改めて確認します」

 木魂おじさんが小さく手を上げる。

「俺は悪くない」

「そこから!?」

「いや、悪くないっていうか……あんなことになると思ってなかったんだよ!」

「昨日もそれ聞いた!」

 その瞬間だった。

 今までとは比べものにならないほど大きな揺れが、会議室全体を襲った。

「うおっ!」

 床が波打つように揺れ、照明が激しく明滅する。

 防御結界が一斉に反応し、警告表示が空中へ浮かび上がった。

 咲良の表情が変わる。

「これは外からじゃない!」

 窓路も立ち上がる。

「内部だ」

「内部?」

「境界そのものが動いてる」

 俺はすぐに魔力を広げた。

 冥府。

 死神界。

 地底界。

 それぞれを隔てている層が、妙な形で圧迫されている。

「何だこれ……」

 その時だった。

 低い男の声が、どこからともなく会議室へ響いた。

『螺良の息子、軍釟よ』

 俺は顔を上げた。

「誰だ!」

 声だけ。

 姿はない。

『今見えている亀裂は、門でも結界でもない。世界と世界の繋ぎ目だ』

「繋ぎ目?」

『木魂が魂の流れを変え、死神界と地底界へ圧が偏った。そのうえ死神の流れまで急激に止めたから、防御の継ぎ目が耐えられなくなっている』

 窓路の表情が険しくなる。

「まさか」

『そのまさかだ』

「あとどれくらい持つ」

 俺が聞くと、声はすぐに答えた。

『二時間』

 会議室が静まった。

「……二時間?」

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