総長の、夜よりもあぶない溺愛。

第三章

部屋の中は静かだった。

外ではまだ遠くにバイクの音が響いているのに、蓮の部屋だけは別の場所みたいに落ち着いている。
紗月は肩にかけられた蓮の上着をぎゅっと握りしめたまま、ベッドの端にちょこんと座っていた。

向かい側の壁にもたれていた蓮が、じっと紗月を見る。

「まだ緊張してるな」

「だ、だって……」

「ここは安全だ」

低くて静かな声。
それを聞くだけで、張っていた気持ちが少しずつほどけていく。

蓮は机の上にあったペットボトルを取って、紗月に差し出した。

「飲め」

「ありがとう……」

受け取ってひと口飲むと、ようやく少し落ち着いた。
でも安心した途端、今度は急に疲れが押し寄せてくる。

今日だけでいろんなことがありすぎた。
学校に迎えに来られて、幹部たちに会って、敵に狙われて、蓮のバイクに乗って、今はそのまま蓮の部屋にいる。

どれも現実味がなくて、夢みたいだった。

「紗月」

「……ん?」

返事をしたつもりが、声が少しぼんやりしていた。
蓮がわずかに眉を寄せる。

「眠いなら寝ろ」

「え、でも……」

「無理すんな」

その一言が思った以上にやさしくて、紗月は目をこすった。

「ちょっとだけ、かも……」

「ちょっとじゃねぇだろ」

蓮は小さく息をつくと、ベッドの上に置いてあった薄い毛布を広げた。

「横になれ」

「でも蓮くんのベッド……」

「だから何だよ」

「だって……」

恥ずかしくて言葉が続かない。
そんな紗月を見て、蓮は少しだけ困ったように目を細めた。

「今のおまえに遠慮する余裕ないだろ」

そう言って、蓮は紗月の頭をぽんと軽く撫でる。

「寝顔見て何かするほど、余裕ねぇ男に見えるか」

「そ、そういう意味じゃ……!」

真っ赤になる紗月を見て、蓮はほんの少しだけ笑った。

「冗談だ」

その顔がやわらかくて、紗月はまたどきっとする。

結局、紗月はおそるおそるベッドに横になった。
蓮の上着の匂いがまだ肩に残っていて、それだけで不思議と安心する。

蓮はベッドのすぐそばの床に座り、壁に背を預けた。

「蓮くん、寝ないの?」

「俺はいい」

「でも……」

「おまえが寝るまでここにいる」

その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。

「ほんとに?」

「ああ」

「ずっと?」

「朝まででも」

さらっと言われて、紗月は思わず毛布を少しだけ引き上げた。
顔が熱いのを隠したかった。

蓮はそんな紗月を見て、やさしく前髪をなでる。

「もう平気だ。寝ろ」

その声はひどく甘かった。

紗月はうとうとしながら、薄く目を開ける。
視界の端には、ずっと自分を見守ってくれている蓮の姿がある。

「……蓮くん」

「ん」

「いてくれて、よかった」

消えそうなくらい小さな声だった。
でも蓮にはちゃんと届いたらしい。

一瞬だけ目を見開いて、それから静かに紗月の頬へ触れる。

「そういうの、寝る前に言うな」

「どうして……?」

「ほんとに離れられなくなる」

その低い声を最後に、紗月の意識はゆっくり沈んでいった。
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