総長の、夜よりもあぶない溺愛。
第四章
静かな深夜だった。
紗月は毛布にくるまれたまま、また浅い眠りに落ちていた。
けれど次の瞬間、夢の中であの夜の光景がよみがえる。
暗い路地。
追いかけてくる足音。
冷たい視線。
伸びてくる手。
「や……っ」
小さく震えた声と同時に、紗月ははっと目を覚ました。
息が苦しい。
胸がどきどきして、うまく呼吸できない。
怖かった記憶がまだ体に残っていて、指先まで冷たくなっていた。
「紗月」
すぐ近くで声がする。
ぼんやりした視界の中で見えたのは、蓮の顔だった。
蓮はすでにベッドのそばまで来ていて、心配そうに紗月を見つめている。
「大丈夫か」
低くて、やさしい声。
でも紗月はすぐに返事ができなかった。
「……こわ、かった……」
やっとそれだけ言うと、蓮の表情が少し痛そうにゆがむ。
「夢か」
紗月は小さくうなずく。
涙がにじみそうになって、自分でも困ってしまう。
そんな紗月を見て、蓮は一瞬だけためらってから、そっと腕を伸ばした。
「こい」
そのひと言が落ちた瞬間、紗月の胸が熱くなる。
「でも……」
「いいから」
やわらかいのに、逆らえない声だった。
紗月が少しだけ身を起こすと、蓮はそのまま自分のほうへ引き寄せる。
次の瞬間、ふわっと包まれた。
蓮の腕の中だった。
「……っ」
広い胸に頬がふれる。
背中に回された手が、ゆっくりと落ち着かせるみたいに撫でてくれる。
「もう大丈夫だ」
耳元で響く声が近い。
その低さが、震えていた心を少しずつほどいていく。
「ここには俺しかいない」
抱きしめる力は強いのに、苦しくない。
むしろ、離れたらまた怖くなりそうで、紗月はそっと蓮の服をつかんだ。
すると蓮の手が、さらにやさしく背中をなでる。
「ちゃんと息しろ」
「……うん」
「ゆっくりでいい」
言われた通りに息を吸う。
吐く。
それをくり返すうちに、ばらばらだった鼓動が少しずつ落ち着いてきた。
蓮は何も急かさない。
ただずっと、紗月を抱きしめたままそばにいてくれる。
「……蓮くん」
「ん」
「離れないで」
気づいたら、そんな言葉がこぼれていた。
自分でも甘えすぎだと思ったのに、蓮は少しも笑わなかった。
それどころか、抱きしめる腕にほんの少し力を込める。
「離れるわけねぇだろ」
低く言い切る声に、また胸がぎゅっとなる。
「怖い時は、ちゃんと言え」
「……いいの?」
「ああ」
「迷惑じゃない?」
そう聞いた瞬間、蓮はわずかに体を離して、紗月の顔を見た。
「おまえ、まだそんなこと思ってんのか」
真剣な目だった。
そのまま蓮の指先が、紗月の目元に触れる。
「迷惑なら、ここまでしねぇ」
やさしく涙をぬぐわれて、紗月の胸の奥が熱くなる。
「おまえが怖いなら、俺が落ち着くまでそばにいる」
「……ずっと?」
「朝まででも、その先でも」
前にも聞いた言葉。
でも今は、もっと深く心にしみた。
蓮はまた紗月を胸の中へ戻すと、髪を撫でる。
あやすみたいなその手つきが、ひどく甘い。
「寝ろ」
「でも、また夢見たら……」
「その時も起こせ」
「起きてくれる?」
「何回でも」
即答だった。
その言葉がうれしくて、紗月は蓮の服を握る指に少しだけ力を込めた。
すると蓮が、かすかに息をつく。
「……ほんと、危ねぇ」
「え?」
「そんなふうに頼られたら、甘やかすしかなくなる」
耳元でそう言われて、紗月の顔が熱くなる。
でも次の瞬間、蓮の唇が髪に触れそうなくらい近づいて、さらにどきっとした。
「今日は特別じゃねぇ」
「……え?」
「おまえには、最初から甘い」
あまりにもまっすぐで、紗月は何も返せなくなる。
怖い夢で目が覚めたはずなのに。
今はもう、胸に残っているのは別の熱だけだった。
蓮の腕の中はあたたかくて、安心できて、少しだけ苦しいほど甘い。
紗月はそのぬくもりに包まれながら、ゆっくり目を閉じる。
「おやすみ、紗月」
低く落ちたその声を最後に、今度こそ紗月は穏やかな眠りへ落ちていった。
そして蓮は、眠った紗月を抱きしめたまま、小さくつぶやく。
「もう誰にも触らせねぇ」
深夜の部屋に溶けるその声は、やさしいのに独占欲に満ちていた。
紗月は毛布にくるまれたまま、また浅い眠りに落ちていた。
けれど次の瞬間、夢の中であの夜の光景がよみがえる。
暗い路地。
追いかけてくる足音。
冷たい視線。
伸びてくる手。
「や……っ」
小さく震えた声と同時に、紗月ははっと目を覚ました。
息が苦しい。
胸がどきどきして、うまく呼吸できない。
怖かった記憶がまだ体に残っていて、指先まで冷たくなっていた。
「紗月」
すぐ近くで声がする。
ぼんやりした視界の中で見えたのは、蓮の顔だった。
蓮はすでにベッドのそばまで来ていて、心配そうに紗月を見つめている。
「大丈夫か」
低くて、やさしい声。
でも紗月はすぐに返事ができなかった。
「……こわ、かった……」
やっとそれだけ言うと、蓮の表情が少し痛そうにゆがむ。
「夢か」
紗月は小さくうなずく。
涙がにじみそうになって、自分でも困ってしまう。
そんな紗月を見て、蓮は一瞬だけためらってから、そっと腕を伸ばした。
「こい」
そのひと言が落ちた瞬間、紗月の胸が熱くなる。
「でも……」
「いいから」
やわらかいのに、逆らえない声だった。
紗月が少しだけ身を起こすと、蓮はそのまま自分のほうへ引き寄せる。
次の瞬間、ふわっと包まれた。
蓮の腕の中だった。
「……っ」
広い胸に頬がふれる。
背中に回された手が、ゆっくりと落ち着かせるみたいに撫でてくれる。
「もう大丈夫だ」
耳元で響く声が近い。
その低さが、震えていた心を少しずつほどいていく。
「ここには俺しかいない」
抱きしめる力は強いのに、苦しくない。
むしろ、離れたらまた怖くなりそうで、紗月はそっと蓮の服をつかんだ。
すると蓮の手が、さらにやさしく背中をなでる。
「ちゃんと息しろ」
「……うん」
「ゆっくりでいい」
言われた通りに息を吸う。
吐く。
それをくり返すうちに、ばらばらだった鼓動が少しずつ落ち着いてきた。
蓮は何も急かさない。
ただずっと、紗月を抱きしめたままそばにいてくれる。
「……蓮くん」
「ん」
「離れないで」
気づいたら、そんな言葉がこぼれていた。
自分でも甘えすぎだと思ったのに、蓮は少しも笑わなかった。
それどころか、抱きしめる腕にほんの少し力を込める。
「離れるわけねぇだろ」
低く言い切る声に、また胸がぎゅっとなる。
「怖い時は、ちゃんと言え」
「……いいの?」
「ああ」
「迷惑じゃない?」
そう聞いた瞬間、蓮はわずかに体を離して、紗月の顔を見た。
「おまえ、まだそんなこと思ってんのか」
真剣な目だった。
そのまま蓮の指先が、紗月の目元に触れる。
「迷惑なら、ここまでしねぇ」
やさしく涙をぬぐわれて、紗月の胸の奥が熱くなる。
「おまえが怖いなら、俺が落ち着くまでそばにいる」
「……ずっと?」
「朝まででも、その先でも」
前にも聞いた言葉。
でも今は、もっと深く心にしみた。
蓮はまた紗月を胸の中へ戻すと、髪を撫でる。
あやすみたいなその手つきが、ひどく甘い。
「寝ろ」
「でも、また夢見たら……」
「その時も起こせ」
「起きてくれる?」
「何回でも」
即答だった。
その言葉がうれしくて、紗月は蓮の服を握る指に少しだけ力を込めた。
すると蓮が、かすかに息をつく。
「……ほんと、危ねぇ」
「え?」
「そんなふうに頼られたら、甘やかすしかなくなる」
耳元でそう言われて、紗月の顔が熱くなる。
でも次の瞬間、蓮の唇が髪に触れそうなくらい近づいて、さらにどきっとした。
「今日は特別じゃねぇ」
「……え?」
「おまえには、最初から甘い」
あまりにもまっすぐで、紗月は何も返せなくなる。
怖い夢で目が覚めたはずなのに。
今はもう、胸に残っているのは別の熱だけだった。
蓮の腕の中はあたたかくて、安心できて、少しだけ苦しいほど甘い。
紗月はそのぬくもりに包まれながら、ゆっくり目を閉じる。
「おやすみ、紗月」
低く落ちたその声を最後に、今度こそ紗月は穏やかな眠りへ落ちていった。
そして蓮は、眠った紗月を抱きしめたまま、小さくつぶやく。
「もう誰にも触らせねぇ」
深夜の部屋に溶けるその声は、やさしいのに独占欲に満ちていた。