総長の、夜よりもあぶない溺愛。
少ししてから、紗月はようやく落ち着いて蓮の部屋を出た。

とはいえ、完全に平常心ではいられない。
だってついさっきまで、蓮の腕の中で目を覚ましていたのだ。思い出すたびに顔が熱くなる。

「行くぞ」

先に歩き出した蓮が、当たり前みたいに紗月の手を取る。
その自然すぎる動きに、紗月はまたどきっとした。

廊下を進んだ先の広めの部屋では、すでに宵闇の幹部たちが待っていた。
テーブルの上には朝ごはんが並んでいて、思っていたよりずっと普通の光景なのに、そこにいるメンバーが普通ではない。

「あ、おはよー紗月ちゃん」

相沢がひらひら手を振る。

「おはようございます。よく眠れましたか」

神崎はいつも通り落ち着いている。

「総長に食われてねぇ?」

白石がにやっと笑う。

「白石」

蓮の声が一気に低くなる。

「冗談だって」

そう言いながらも白石は全然反省していない。

桐生は紗月を見ると、短くひとことだけ言った。

「顔赤い」

「っ……!」

朝から逃げ場がない。
紗月が恥ずかしさで固まっていると、蓮がすっと前に出た。

「からかうな」

静かな声なのに、それだけで場が少し締まる。
でも幹部たちは慣れているのか、そこまで引かない。

「だって分かりやすすぎるんだよ、総長」

相沢が笑う。

「黒瀬さん、こっちどうぞ」

神崎が空いている席を示そうとした、その瞬間だった。

蓮が紗月の手を引く。

「こっち」

「え?」

連れて行かれたのは、蓮のすぐ隣の席だった。
しかも自然すぎる動きで椅子を引いてくれる。

「座れ」

「え、でも……」

「いいから」

逆らえない声。
でもやさしさも混じっていて、紗月はおそるおそるその席に座る。

一瞬、部屋の空気が止まった。

それから次の瞬間、幹部たちが一斉に反応する。

「うわ、やった」
 
相沢が真っ先に笑う。

「隣、固定なんですね」
 
神崎が小さくため息をつく。

「もう隠す気ゼロじゃん」

白石が肩を震わせる。

桐生は静かにぼそっと言った。

「予想通り」

紗月は恥ずかしくて俯きそうになる。
でもその時、蓮がさりげなくテーブルの上に手を置いた。紗月の手が逃げない位置に。

「ちゃんと食え」

そう言いながら、蓮は紗月の前に食べやすそうなものを寄せる。
熱すぎないスープ。取りやすいパン。甘めの飲み物まで。

それを見た白石がすぐに吹き出した。

「世話焼きすぎだろ!」

「白石、声でかい」

相沢も笑っている。

神崎は少しあきれた顔のまま言った。

「総長、昨日まで他人にそこまでしたことありませんよね」

「……うるせぇ」

ぶっきらぼうな返事。
でも否定はしない。

紗月はそっとスープを口に運ぶ。
あたたかくて、ほっとする味だった。

「おいしい……」

ぽつりとこぼすと、蓮がすぐに反応する。

「そうか」

たったそれだけなのに、声が少しやわらかい。

白石は完全に面白がっていた。

「今の返事、甘っ」

「総長、黒瀬さんの言葉だけ拾うの早すぎ」

相沢まで乗っかる。

すると蓮は、紗月の方へ少しかがんだ。

「気にすんな」

「……うん」

近い距離でそう言われるだけで、紗月の心臓が跳ねる。
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