総長の、夜よりもあぶない溺愛。
相沢の言葉が落ちたあと、部屋の空気は一気に張りつめた。

白石は舌打ちしながら椅子にもたれ、神崎は静かに次の動きを考えている。桐生は窓の外へ視線を向けたまま、何かを探るように目を細めていた。

その中で、蓮だけが紗月の手を握ったまま低く言う。

「安心しろ。今度は絶対、先に守る」

その言葉はうれしい。
でも同時に、紗月の胸の奥に小さな熱が灯った。

守られるだけじゃいやだ。

怖い。
危ない。
それでも、ただ後ろに隠れているだけじゃいたくない。

紗月はぎゅっと唇を結んでから、そっと蓮の手を握り返した。

「……私も」

蓮が目を向ける。

「私も、ちゃんと向き合いたい」

「紗月」 蓮の眉がわずかに寄る。

でも紗月は逸らさなかった。
どきどきする胸のまま、まっすぐ蓮を見返す。

「いつも助けてもらってばっかりはいやなの」

相沢が少しだけ意外そうに目を瞬く。
白石も口を閉じた。
神崎は静かに紗月の次の言葉を待っている。
桐生だけが、少しだけ口元をゆるめた。

「私、怖いのは怖いよ」

紗月は正直に言う。

「でも、何が起きてるのか知らないまま、蓮くんたちに守られてるだけなのはもっと嫌」

静かな部屋に、その声がちゃんと響く。

「私のせいで狙われてるなら、私も知りたい。ちゃんと考えたい。どうしたらいいか、一緒に決めたい」

言い切った瞬間、胸がどくんと鳴った。
でも不思議と後悔はなかった。

蓮はしばらく黙っていた。
じっと見つめてくるその目は真剣で、少しだけ苦しそうでもある。

「危ねぇんだぞ」

低い声。

「分かってる」

「昨日みたいなことが、またあるかもしれねぇ」

「分かってるよ」

それでも紗月はうなずいた。

「でも、蓮くんの隣にいたい」

そのひと言に、部屋の空気が止まる。

相沢が小さく息をのみ、白石が目を丸くし、神崎は目を伏せて苦笑した。
桐生は静かに紗月を見ている。

いちばん固まっていたのは、蓮だった。

「……おまえ」

かすれたような声。
紗月は恥ずかしくてたまらないのに、もう止まれなかった。

「守られるだけじゃなくて、ちゃんと隣にいたいの」

蓮の瞳が揺れる。

次の瞬間、蓮は深く息をついて、額を押さえた。

「それ、今言うかよ……」

「え?」

「無理だろ。そんなこと言われたら、余計に離せなくなる」

低くつぶやく声に、紗月の頬が熱くなる。

白石が先に吹き出した。

「総長、完全に負けてんじゃん」

「うるせぇ」

相沢も笑いながら肩をすくめる。

「でもいいね。紗月ちゃん、思ったよりずっと強い」

神崎はやわらかく言う。

「守られるだけではいたくない。その気持ちは大事です」

桐生が短く続けた。

「向いてる」

「何に?」

紗月がきょとんとすると、桐生は少しだけ目を細めた。

「肝が据わってる」

その言葉に、紗月は少しだけ照れくさくなる。

けれど蓮だけはまだ納得していない顔だった。
紗月のほうへ向き直ると、低い声で言う。

「隣にいたいなら、勝手なことすんな」

「しないよ」

「ひとりで動くな」

「うん」

「何かあったらすぐ言え」

「うん」

言うたびに条件が増えていく。
でもそれは、突き放すためじゃない。受け入れるための確認だと分かって、紗月は少しうれしくなった。

「あと」

蓮が少しだけ近づく。

「守られるだけじゃないって思うなら、無茶するな。おまえがちゃんと無事でいることも、立派に戦ってるってことだ」

まっすぐなその言葉に、紗月は目を瞬いた。

守られるだけじゃない。
無事でいようとすることも、隣に立つことも、ちゃんと意味がある。

「……うん」

今度は自然にうなずけた。

すると蓮は、少しだけ表情をゆるめた。

「いい子」

「えっ」

ぽん、と頭に手がのる。
一瞬で顔が熱くなる。

「総長、甘っ」 

相沢が即座に反応する。

「会議にならねぇな、これ」

白石もあきれて笑う。

神崎はため息まじりに席へ座り直した。

「では、黒瀬さんも含めて話しましょう」

その言葉に、紗月は胸の奥がじんと熱くなる。

含めて。
ちゃんと仲間として、ここに入れてくれた。

蓮はまだ少し不満そうだったけれど、紗月の手を離さないまま椅子を引いた。

「隣、来い」

「また!?」

「当たり前だろ」

ぶっきらぼうに言いながら、紗月が座りやすいように少し机をずらしてくれる。
その手つきがあまりにも自然で、紗月は思わず小さく笑った。

怖いことはまだ終わっていない。
でももう、ひとりじゃない。

守られるだけじゃなく、自分の足でも立つ。
そう決めた紗月の横には、相変わらず過保護で甘い蓮がいる。

そして宵闇の幹部たちもまた、そんな紗月を少しずつ認め始めていた。
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