総長の、夜よりもあぶない溺愛。
神崎は地図から顔を上げると、やわらかく微笑んだ。

「黒瀬さん、すごいです。怖かったはずなのに、ちゃんと見ていたんですね」

その言い方はやさしくて、紗月は少し照れる。

「たまたまだよ……」

「たまたまで、そこまで気づけません」

神崎はきっぱり言った。

「総長が隣に置きたがる理由が、少し分かりました」

そのひと言に、紗月だけじゃなく白石たちまで反応する。

「たしかに」

相沢が頬杖をついて笑う。

「守りたくなるだけじゃなくて、ちゃんと目が離せない子なんだよね」

白石も腕を組みながら、珍しくまじめな顔をした。

「最初は、ただ可愛いだけかと思ってた」

「白石」

蓮の声が低くなる。

「褒めてんだって」

白石は笑ってから、紗月のほうを見る。

「でも違った。可愛いのに肝据わってるとか、反則だろ」

紗月は目をぱちぱちさせる。
そんなふうに言われるなんて思っていなかった。

桐生はいつも通り表情が薄いまま、ぽつりと落とす。

「放っておけない」

そのひと言に、部屋の空気が少し揺れた。

相沢がすぐににやりとする。

「珍しい。桐生がそんなこと言うの」

桐生は淡々と続ける。

「危なっかしいからじゃない。ちゃんと前を見るから」

紗月の胸が、どくんと鳴る。

白石は大げさにため息をついた。

「だめだ、これ。総長だけじゃなくて、みんな落ちるやつじゃん」

「おい」

蓮の声が一段低くなる。

でももう遅い。
相沢は完全に面白がっていた。

「いやでも分かるよ。天然で可愛いのに、いざって時ちゃんとしてるとか、ずるいよね」

そう言いながら紗月を見つめる目は、からかいだけじゃなかった。

「そりゃ大事にしたくもなる」

神崎も苦笑する。

「ええ。これは惹かれますね」

「神崎まで!?」

紗月が思わず声を上げると、神崎は少しだけ目を細めた。

「安心してください。総長の大事な人に手は出しません」 そこで一拍置いてから続ける。

「ただ、大切に思う気持ちは止められないかもしれませんが」

静かなその甘さに、紗月の頬が熱くなる。

白石もすぐに乗る。

「俺も手は出さねぇよ。総長に殺されるし」

それでもにっと笑って言う。

「でも惚れるのは自由だろ」

「白石」

蓮が本気で睨む。

桐生は短く言った。

「もう遅い」

「は?」

白石が笑う。

「少なくとも、気になる」

桐生は視線を逸らさないまま紗月を見る。

「紗月さんは特別」

そのひと言で、空気が完全に止まった。
< 23 / 30 >

この作品をシェア

pagetop