総長の、夜よりもあぶない溺愛。
部屋の中に残っていた緊張は、まだ完全には消えていなかった。

けれど紗月の目は、もう迷っていなかった。
泣いてしまったのも、怖かったのも本当だ。
それでも、もう守られているだけの自分ではいたくない。

蓮はそんな紗月をじっと見つめたあと、低く言った。

「まずは状況を見る癖をつけろ」

その声に、紗月は背筋を伸ばす。

「見る……?」

「ああ。ただ怖がるだけじゃ、何も守れねぇ」

蓮は近くの机に置かれていた地図を広げた。

「逃げ道、人の流れ、死角。そういうのを先に頭に入れろ」

真剣な横顔。
いつもの甘さを少しだけ隠した、総長としての蓮だった。

紗月はこくっとうなずく。

「うん」

神崎が横から静かに補足する。

「危険な場所では、安心できる場所を最初に見つけることも大事です」

相沢はにっと笑った。

「あと、怪しい人はだいたい目が合わない」

「それ偏見じゃねぇ?」

白石が突っこむ。

「でも当たるよ」

相沢は肩をすくめた。

桐生は腕の傷に軽く包帯を巻いたまま、短く言う。

「音も大事」

紗月がそちらを見ると、桐生は窓の外へ目を向けた。

「足音。バイク。急に消える声。変化で気づける」

言葉数は少ないのに、どれも重い。
紗月はひとつも聞き逃さないように、しっかりうなずいた。

「紗月」 蓮が名前を呼ぶ。

「はい」

「おまえは一気に全部やろうとするな。今日は三つだけ覚えろ」

「三つ」

「逃げ道」

蓮が指を一本立てる。

「次に、人の動き」 二本目。

「最後に、違和感」

三本目が立てられる。
分かりやすい。
紗月は少しだけ安心して、小さく笑った。

「うん、覚える」

すると蓮の目元が、ほんの少しだけやわらぐ。

「いい返事」

その言い方がやさしくて、紗月の胸がきゅっとなる。
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