総長の、夜よりもあぶない溺愛。
数分後。
宵闇は静かに動き出した。

神崎が裏口の安全を確認し、桐生は上から相手の配置を見る。
白石と相沢が正面でわざと気配を見せることで、相手の意識を前へ引きつける。

そして蓮は、紗月を連れて裏へ回った。

「緊張してるか」

低い声で聞かれて、紗月は正直にうなずく。

「してる」

「なら正常だ」

歩幅を合わせながら、蓮は短く続ける。

「怖いって思えるやつの方が、生き残る」

その言葉に、紗月は少しだけ肩の力を抜いた。

裏通路の壁に身を寄せながら、紗月は蓮の背中を見る。
大きい。頼もしい。
でも今日は、その背中の後ろに隠れているだけじゃない。

蓮が足を止める。

「今だ」

その声と同時に、正面から白石の大きな声が響いた。

「おい、待たせたな!」

男たちの意識がそちらへ向く。

相沢の笑い声。
神崎の指示。
桐生の短い合図。

全部がつながって、一瞬だけ相手に隙が生まれる。

その時、紗月は見た。

車の後ろに隠れていた一人が、ポケットに手を入れながら別方向へ動こうとしている。

「蓮くん、左!」

反射的に声が出る。

蓮は一瞬でそちらを向き、その男の動きを止めた。
神崎もすぐに回り込み、逃げ道を塞ぐ。

「ナイス」

相沢が笑う。

白石も楽しそうに叫ぶ。

「やるじゃん、紗月ちゃん!」

桐生は上から短く落とす。

「正解」

紗月の胸が熱くなる。
自分の声で、動きが変わった。
ちゃんと役に立てた。

蓮が振り返り、紗月を見る。

ほんの一瞬。
でもその目には、はっきりとした熱があった。

「……いい子」

低く落ちたそのひと言だけで、紗月の顔が一気に熱くなる。

「い、今それ言う!?」

「今だからだろ」

さらっと返されて、心臓がまたうるさくなる。

白石が遠くで笑った。

「総長、戦闘中にまで甘っ!」

「集中してください」

神崎が冷静に返す。

でもどこか、みんな少し楽しそうだった。

紗月はまだ震えている。
怖さはなくならない。
それでも今、自分は蓮の隣で立てている。

その実感が、何より強かった。

そして蓮はそんな紗月を見て、もう前より迷いなく思っていた。
守るだけじゃない。
この子は、俺の隣に立てる。

だからこそ、誰にも渡したくないと。
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