総長の、夜よりもあぶない溺愛。
「おまえら、暇か」

低い声が飛ぶ。

「暇じゃないです」

「でも気になります」

「だって特別扱いが分かりやすすぎるんで」

その言葉に、紗月の心臓がどきっと鳴る。

特別扱い。
その響きが頭の中で何度もくり返されて、落ち着かない。

すると蓮は、ソファの背に軽く寄りかかりながら紗月を見下ろした。

「飲め」

「う、うん」

慌てて飲み物を手に取る紗月。
けれど少し緊張していたせいで、ふたを開けそこねてしまう。

「あっ」

次の瞬間、蓮が自然に紗月の手からボトルを取った。

「貸せ」

軽くひねって開けると、そのまままた紗月に戻してくれる。

「はい」

「あ、ありがとう……」

近くで見ていた仲間たちが、一斉に固まった。

「今の見た?」

「無理だろ」

「世話焼いてる蓮さんとか初めて見た」

紗月は恥ずかしくなってうつむく。
蓮はそんな反応を見て、少し眉を寄せた。

「からかうな。紗月が困ってる」

その言い方は完全に守る側だった。

紗月がそっと顔を上げると、仲間のひとりがにこっと笑う。

「大丈夫。俺ら、蓮さんがそんな顔する相手初めて見ただけ」

「そんな顔?」

思わず聞き返すと、その子はいたずらっぽく言った。

「めちゃくちゃ大事にしてる顔」

その瞬間、紗月の頬が一気に熱くなる。

蓮は小さく舌打ちした。

「余計なこと言うな」

「でもほんとじゃん」

「昨日助けた時点でやばかったし」

「さっきだって囲むなって速攻で止めたし」

次々暴露されて、紗月はもう蓮を見られない。

けれどその時、隣のソファが少し沈んだ。
気づけば蓮がすぐ横に座っている。

「蓮くん……?」

「顔真っ赤」

「だ、誰のせいだと思ってるの」

小さく抗議すると、蓮はほんの少しだけ口元をゆるめた。

「俺かもな」

その低い声が近すぎて、紗月の胸はまた大きく跳ねる。

仲間たちはわあっと騒ぎ出した。

「認めた」

「今のはやばい」

「もう完全に好きじゃん」

蓮はうるさそうに眉をひそめたあと、突然紗月の肩を引き寄せた。

「これ以上赤くさせんな」

「えっ」

気づけば、紗月の肩が蓮の腕に触れている。
近いどころじゃない。逃げようとしたのに、蓮の手がやさしく肩を押さえて離してくれない。

「ここにいろ」

「で、でも……」

「俺のそばが一番安全」

さらっと言われて、紗月は言葉を失う。

怖い町で、怖いはずの人なのに。
その腕の中だけは、どうしようもなく安心する。

仲間たちは呆れ半分で笑っていた。

「蓮さん、もう隠す気ないだろ」

「最初からないと思う」

「紗月ちゃん、大変だね」

「これから絶対もっと甘くなるよ」

その言葉に、紗月はどきどきしながら蓮を見上げる。
すると蓮は、少しだけ目を細めて言った。

「文句あるか」

「……ない、です」

小さく答えると、蓮は満足そうに紗月の頭をくしゃっと撫でた。

その瞬間、アジトの中はさらに大騒ぎになった。

紗月は恥ずかしくてたまらないのに、胸の奥はふわふわと甘く満たされていく。

たぶんもう遅い。
この危険な町でいちばん捕まってはいけない人に、少しずつ心まで奪われ始めていた。
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