総長の、夜よりもあぶない溺愛。

第二章

次の日の放課後。
紗月が教室で帰る準備をしていると、窓の外が妙にざわついていた。

「ねえ、下やばくない?」

「誰あれ」

「バイク、すご……」

クラスの子たちが次々に廊下へ出ていく。
紗月も何だろうと思って窓の外をのぞきこんで、息をのんだ。

校門の前に、数台のバイク。
そして、その中心に立っていたのは一ノ瀬蓮だった。

黒い制服姿のまま壁にもたれ、いかにも近寄りがたい空気をまとっている。まわりには数人の男の子たち。昨日会った宵闇の仲間だけじゃない。もっと空気の違う、特別な存在感のある人たちがいた。

「えっ……蓮くん?」

思わず声が漏れる。

すると隣にいた友達が目を丸くした。

「知り合いなの!?」

紗月の顔が一気に熱くなる。

その頃、校門の前では宵闇の幹部たちがそれぞれ好き勝手に話していた。

「総長、目立ちすぎです」

副総長の神崎斗真が、呆れたようにため息をつく。

「でもおもしれぇじゃん」

特攻隊長の白石恒一はにやにや笑っている。

「学校まで来るとは思わなかった」

親衛隊長の桐生悠真は無表情のまま、校舎を見上げた。

「紗月ちゃん、絶対びっくりしてるよね」

情報担当の相沢玲央は楽しそうにスマホをいじっている。

そんな中、蓮だけは不機嫌そうに一言だけ返した。

「うるせぇ」

でもその視線は、ずっと校舎の上に向けられていた。

紗月があわてて昇降口まで走っていくと、そこにはもう視線が集まりまくっていた。
心臓がばくばく鳴る。こんなの、目立たないわけがない。

外へ出た瞬間、蓮の目がまっすぐ紗月をとらえる。

「遅い」

第一声がそれだった。

「お、遅いって……まだ放課後すぐだよ」

「十分待った」

短く言うくせに、その声はどこか拗ねているみたいで、紗月は少しだけ笑ってしまう。

すると白石が肩を揺らして笑った。

「総長、完全に会いたかった男じゃん」

「黙れ」

神崎もやれやれという顔をしている。

「黒瀬さん、こんにちは。急に学校まで来てすみません」

丁寧に頭を下げたのは神崎だった。

紗月は慌ててぺこっと頭を下げ返す。

「こ、こんにちは……」

すると相沢がにこっと笑って前へ出る。

「はじめまして。俺、相沢玲央。蓮さんの側近みたいなもん」

「言い方が軽い」

桐生がぼそっとつっこむ。

「こっちは神崎斗真。副総長。で、こっちが白石恒一。すぐケンカする人」

「誰がだ」

「最後が桐生悠真。無口だけどたまにやさしい」

一気に紹介されて、紗月は目をぱちぱちさせた。

「え、えっと……はじめまして」

そんな紗月を見て、白石が豪快に笑う。

「やっぱ可愛いな、この子」

「白石」

蓮の声が低くなる。

空気が一瞬で変わった。

白石は両手を上げて笑う。

「はいはい、見ただけです」

神崎が小さくため息をつく。

「独占欲を隠してください、総長」

紗月はますます顔が赤くなる。
でも蓮はまったく否定しない。ただ当然みたいに紗月のバッグを受け取った。

「帰るぞ」

「えっ、みんないるのに?」

「いるけど」

「恥ずかしいよ……」

紗月が小さく言うと、蓮は少しかがんで目線を合わせる。

「じゃあ、早く連れてく」

その言い方があまりにも自然で、紗月は何も言えなくなる。

すると桐生が初めて少しだけ口元をゆるめた。

「総長、顔やばい」

「何が」

「紗月さん見る時だけ、やさしい」

そのひと言で、またまわりがざわつく。

「やっぱそうだよな」

「分かりやすすぎる」

「総長にもそういう顔できるんだ」

蓮は面倒そうに舌打ちしたあと、紗月の手を取った。

「行くぞ」

「わっ」

そのまま歩き出そうとする蓮に、相沢が後ろから笑いながら声をかける。

「紗月ちゃん、また今度ゆっくり話そうね」

紗月が振り向こうとした瞬間、蓮の手が少し強くなる。

「相沢」

「はいはい。こわ」

幹部たちは面白がっているのに、蓮だけは本気だ。

校門を出て少し歩いたところで、紗月はようやく小さく息をついた。

「びっくりした……」

「何が」

「学校まで来るなんて聞いてないもん」

「迎えに行くって言っただろ」

たしかに言っていた。
でも本当に来るとは思っていなかった。

「……うれしかったけど」

紗月が小さな声で言うと、蓮が足を止める。

「もう一回」

「えっ」

「今の、ちゃんと聞かせろ」

近づく影に、紗月の心臓が跳ねる。
後ろでは少し離れた場所から、幹部たちがにやにや見ていた。

紗月は真っ赤になりながら、ぎゅっと制服の裾をにぎる。

「……うれしかった、です」

すると蓮は満足したみたいに目を細めた。

「なら、明日も行く」

「毎日!?」

後ろから白石の爆笑が聞こえる。
神崎は頭を押さえ、相沢は面白そうに笑い、桐生は静かにその様子を見ていた。

こうして紗月は知ることになる。
一ノ瀬蓮の溺愛は、自分が思っていたよりずっと重くて甘いのだと。
そして宵闇の幹部たちもまた、その恋を見守りながら深く関わっていくのだった。
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