外れ夫と結婚したのに、気付けば憧れの愛され妻と呼ばれていました
1 舞い込んだ縁談
ある日、友崎家にふた組の縁談が舞い込んだ。
どちらも、本来なら望めないような良縁。父親は思いがけない幸運に喜び、ふたりの娘に釣書を差し出した。
◇◇
「沙絵、私やっぱりそっちの方がいいわ」
高い声が響いたのは、次女の友崎沙絵が、自分のお見合い相手の釣書を確認している最中のことだった。
沙絵がゆっくり顔を上げると、艶やかな黒髪がさらりと肩を流れる。
卵型の輪郭に二重の幅が広い大きな目が印象的な顔のつくり。二十六歳という年齢の割に醸し出す雰囲気は落ち着き払っており、急な見合い話にも動じていない。
そんな沙絵に、姉の杏華が、堂々と右手を前に突き出してきた。
「早く、渡して」
沙絵は、杏華と目を合わせた。
流行のメイクとファッションで華やかに装う彼女は美しいが、態度は傲慢そのものだ。
「なに、ぼんやりしてるの? さっさとちょうだい!」
杏華がとうとう苛立った声を上げた。沙絵は微かなため息を零す。
「ちょうだいって……この釣書は私のお見合い相手のものだけど……」
「なにか問題がある?」
杏華は悪びれずに胸を張る。
沙絵は密かにため息を吐いた。
彼女は沙絵の父と杏華の母が再婚して家族になった、血の繋がりがない姉だ。
沙絵より一つ年上だが、我儘で欲しいと思ったものは手に入れないと気が済まない厄介な性格をしている。
沙絵は義姉の我儘により、これまで多くの機会や、大事な物まで強引に奪われてきた。
クリスマスプレゼントも誕生日プレゼントも、杏華が気に入ったら沙絵の手元には残らない。
友人との仲を引き裂かれ、果てには母方の祖父母との交流にまで口を出された。
杏華の祖父母が早くに他界したため、沙絵だけ祖父母がいるのはずるいという主張だった。
三歳の頃母に買って貰った思い出のピアノも杏華のものになってしまった。
幼い頃は反発し泣いて抵抗したこともある。
けれど継母が、杏華を断固として庇った。
物心ついたときから父がいない不憫な子だからと周囲の同情を買い、いつも最終的には沙絵が我慢して杏華に譲るはめになった。
父親は事なかれ主義で継母と揉めることを嫌がり味方になってはくれない。幼かった沙絵には抗う手段がなかった。
だから沙絵は段々と諦めることを覚え、何事にも執着しないようになった。
大切にしなければ奪われても心のダメージは少ない。
そんなに欲しいなら好きに持っていけばいい。執着を手放せば苦しまずに済むから。
けれど、見合い相手まで奪おうとするとは、予想外だった。
(我儘というよりめちゃくちゃね)
さすがに呆れるが感情を表に出さず冷静に返す。
「お姉さんにも、お見合い相手がいるでしょ?」
(それも自ら大喜びで選んだイケメンの相手がね)
沙絵の脳裏に、父から釣書を渡されたとき。ほんの十数分前の出来事が蘇る――。
どちらも、本来なら望めないような良縁。父親は思いがけない幸運に喜び、ふたりの娘に釣書を差し出した。
◇◇
「沙絵、私やっぱりそっちの方がいいわ」
高い声が響いたのは、次女の友崎沙絵が、自分のお見合い相手の釣書を確認している最中のことだった。
沙絵がゆっくり顔を上げると、艶やかな黒髪がさらりと肩を流れる。
卵型の輪郭に二重の幅が広い大きな目が印象的な顔のつくり。二十六歳という年齢の割に醸し出す雰囲気は落ち着き払っており、急な見合い話にも動じていない。
そんな沙絵に、姉の杏華が、堂々と右手を前に突き出してきた。
「早く、渡して」
沙絵は、杏華と目を合わせた。
流行のメイクとファッションで華やかに装う彼女は美しいが、態度は傲慢そのものだ。
「なに、ぼんやりしてるの? さっさとちょうだい!」
杏華がとうとう苛立った声を上げた。沙絵は微かなため息を零す。
「ちょうだいって……この釣書は私のお見合い相手のものだけど……」
「なにか問題がある?」
杏華は悪びれずに胸を張る。
沙絵は密かにため息を吐いた。
彼女は沙絵の父と杏華の母が再婚して家族になった、血の繋がりがない姉だ。
沙絵より一つ年上だが、我儘で欲しいと思ったものは手に入れないと気が済まない厄介な性格をしている。
沙絵は義姉の我儘により、これまで多くの機会や、大事な物まで強引に奪われてきた。
クリスマスプレゼントも誕生日プレゼントも、杏華が気に入ったら沙絵の手元には残らない。
友人との仲を引き裂かれ、果てには母方の祖父母との交流にまで口を出された。
杏華の祖父母が早くに他界したため、沙絵だけ祖父母がいるのはずるいという主張だった。
三歳の頃母に買って貰った思い出のピアノも杏華のものになってしまった。
幼い頃は反発し泣いて抵抗したこともある。
けれど継母が、杏華を断固として庇った。
物心ついたときから父がいない不憫な子だからと周囲の同情を買い、いつも最終的には沙絵が我慢して杏華に譲るはめになった。
父親は事なかれ主義で継母と揉めることを嫌がり味方になってはくれない。幼かった沙絵には抗う手段がなかった。
だから沙絵は段々と諦めることを覚え、何事にも執着しないようになった。
大切にしなければ奪われても心のダメージは少ない。
そんなに欲しいなら好きに持っていけばいい。執着を手放せば苦しまずに済むから。
けれど、見合い相手まで奪おうとするとは、予想外だった。
(我儘というよりめちゃくちゃね)
さすがに呆れるが感情を表に出さず冷静に返す。
「お姉さんにも、お見合い相手がいるでしょ?」
(それも自ら大喜びで選んだイケメンの相手がね)
沙絵の脳裏に、父から釣書を渡されたとき。ほんの十数分前の出来事が蘇る――。
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