君のとなり〜拓実と〜

第24翔 もう一度、跳ぶ

 病院での診察の日。

これまで翔は、地道に筋力トレーニングを続けていた。

毎日のリハビリメニューも欠かさなかった。

思うように身体が動かない日もあった。

それでも、途中で投げ出すことはなかった。

もう一度、跳びたい。

その気持ちだけを支えに、一つずつ身体を作り直してきた。

きっかけは、瑠夏の跳ぶ姿だった。

あの日、グラウンドで見た瑠夏の背面跳び。

その姿が、翔の中にもう一度、跳びたいという気持ちを呼び起こした。

そして今日。

これまでのリハビリの経過を確認した翔は、診察室で少し緊張したまま医師の言葉を待っていた。

「順調ですね」

その言葉に、翔は小さく息を吐く。

そして、ずっと聞きたかったことを口にした。

「……もう、跳んでもいいですか?」

医師が頷く。

「少しずつですよ。最初から無理をしないこと。痛みや違和感があれば、すぐに中止してください」

「……はい」

その瞬間。

翔の顔が、ぱっと明るくなった。

「ありがとうございます!」

病院を出た翔は、思わず空を見上げた。

青い空が、どこまでも広がっている。

――やっと。

やっと、跳べる。

***

その足で、翔は学校へ向かった。

そして、顧問のもとへ報告する。

「先生、今日から跳ぶ練習、始めてもいいって言われました」

顧問も嬉しそうに笑った。

「そうか。よかったな」

「はい!」

その日から、少しずつ練習を始めた。

助走。

踏み切り。

着地。

最初は低い高さから。

以前のようにはいかない。

身体の感覚を確かめながら、一つずつ動きを取り戻していく。

それでも、翔は笑っていた。

跳べる。

それだけで嬉しかった。

***

体育館二階。

新体操部の練習。

休憩中、瑠夏はふと体育館の扉の向こうへ目を向けた。

グラウンド。

そして――

「……翔くん?」

そこに、翔がいた。

高跳びのマットの前。

助走を取る。

そして――

跳ぶ。

バーはまだ低い。

本格的な高さではない。

それでも。

瑠夏の胸が、いっぱいになった。

よかった。

本当に、よかった。

ずっと心配だった。

もう跳べないんじゃないかと思っていた。

辞めちゃうんじゃないかと思っていた。

なのに。

翔はまた、跳んでいる。

瑠夏は知らないうちに笑っていた。

「……よかったね」

小さく呟く。

その顔を、自分がどんな顔をしているのか、瑠夏は気づいていなかった。

ただ、嬉しかった。

もう一度、翔が跳べたことが。

***

その頃には、拓実も翔の復帰を知っていた。

廊下で顔を合わせたとき、拓実が声をかける。

「よかったな、翔」

翔は少し驚いたように拓実を見る。

そして、笑った。

「ありがとうございます」

短いやり取り。

拓実にとって翔は、大切な後輩であり、同じ陸上に打ち込む仲間でもある。

だから、翔がまた競技に戻れることが純粋に嬉しかった。

「また一緒に頑張ろうな」

「はい」

翔は笑って答えた。
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