君のとなり〜拓実と〜
第41章 卒業
3月1日。
体育館には、いつもとは違う空気が流れていた。
壇上には卒業証書。
整然と並べられた椅子。
その一番前に座る卒業生たちの中に、拓実がいる。
いつもなら、少し離れた場所にいるだけで見つけられるのに。
今日は、なんだか遠く感じた。
瑠夏は、送辞を読むために壇上へ向かう。
一歩。
また一歩。
マイクの前に立つ。
客席に並ぶ在校生。
その前にいる卒業生。
瑠夏の視線が、拓実を捉えた。
目が合う。
拓実が、いつものように優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間。
胸の奥に、たくさんの記憶が蘇った。
初めて出会った文化祭。
一緒に準備をした時間。
二人で笑ったこと。
抱きしめてもらったこと。
一緒に見た花火。
一年記念日に渡したプレゼント。
怪我をした日。
進路の話をして、泣いた日。
そして――。
受験へ向かう拓実を、新幹線のホームで見送った日。
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
寂しかったこと。
その全部が、今日という日に繋がっている。
瑠夏は、胸の奥に込み上げてくるものをそっと飲み込んだ。
まだ、泣かない。
今日は、卒業生を送り出す日だから。
瑠夏は小さく息を吸った。
そして、送辞を読み始める。
卒業生への感謝。
これまでの思い出。
これから始まる未来への言葉。
一つひとつ、心を込めて伝える。
声が震えそうになるたびに、前を見る。
その先にいる拓実を見る。
拓実は、何も言わずに私を見つめていた。
その目が、優しく笑っている。
大丈夫。
そう言ってくれているような気がした。
最後の言葉を読み終える。
「卒業生の皆さん、本当にありがとうございました」
深く頭を下げる。
大きな拍手が体育館に響いた。
顔を上げた瞬間。
拓実と、もう一度目が合った。
拓実が小さく頷く。
私は微笑んで、壇上を降りた。
今度は、卒業生代表の答辞。
拓実が立ち上がる。
その姿を見た瞬間、また胸がいっぱいになった。
拓実が壇上へ向かう。
マイクの前に立つ。
そして、答辞を読み始めた。
落ち着いた声。
穏やかで、優しい声。
いつも私に話しかけるときと同じ声だった。
高校生活の思い出。
先生や友達への感謝。
これから始まる新しい生活への決意。
その言葉を聞きながら、私は何度も涙を拭った。
今日で、この学校を卒業する。
拓実にとっても。
私にとっても。
大切な場所。
たくさんの思い出が詰まった場所。
答辞が終わる。
拓実が深く一礼する。
体育館いっぱいに拍手が響いた。
私も、涙を流しながら拍手をした。
拓実が壇上を降りる。
その横顔を見つめながら思う。
――本当に、卒業なんだ。
* * *
式が終わった校庭は、笑顔でいっぱいだった。
卒業生たちは友達と写真を撮ったり、先生と話したり、後輩から花束を受け取ったりしている。
あちらこちらから笑い声が聞こえる。
私は人の少ない場所で、拓実を待っていた。
しばらくして、拓実がこちらへ歩いてくる。
「瑠夏」
「拓実」
名前を呼んだだけなのに、胸が熱くなる。
「送辞、ありがとう」
「ううん」
私は首を横に振った。
「すごく緊張した」
「知ってる」
「分かったの?」
「ずっと見てたから」
拓実が笑う。
その笑顔が、やっぱり好き。
「答辞も……すごくよかった」
「ありがとう」
しばらく二人で見つめ合う。
何を話せばいいのか分からない。
今日という日が終わってしまうのが、少し寂しい。
拓実が、校舎を見上げた。
「……ここで過ごすのも、今日で最後か」
「……うん」
拓実が、ふっと私を見る。
「瑠夏」
「ん?」
「これ、あげる」
そう言って、拓実は首元に手をかけた。
シルバーのネクタイ。
ゆっくりと結び目を緩め、ネクタイを外していく。
「え……?」
拓実は外したネクタイを手にしたまま、私の前に立った。
「ちょっと、顔上げて」
「……うん」
拓実の指が、私の制服のリボンに触れる。
留め具を外して、首元からそっとリボンを外してくれた。
そして、その代わりに――。
自分のネクタイを私の首にかける。
「じっとしてて」
「……うん」
拓実の指が、私の首元でネクタイを結んでいく。
慣れた手つきで結び目を整え、最後にそっと位置を直した。
「……似合う」
「本当?」
「ああ」
拓実が優しく笑う。
胸元にあるのは、さっきまで拓実が身につけていたシルバーのネクタイ。
それを見つめていると、胸の奥がじんと熱くなった。
「ありがとう……」
「卒業しても、持ってて」
「うん」
その言葉を聞いた瞬間、我慢していた涙が頬を伝った。
拓実が、そんな私を見つめる。
そして――。
私をそっと抱きしめた。
胸に頬を寄せる。
聞こえてくる鼓動。
いつもと同じ。
安心する音。
「ありがとう」
耳元で、拓実の声がする。
「俺と一緒にいてくれて」
涙が、また溢れた。
「私のほうこそ……ありがとう」
拓実の背中に腕を回す。
「一年間、ずっと幸せだった」
「俺も」
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
「これからも、ずっと大切にする」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
しばらくして、拓実がゆっくりと腕を離した。
そして、私の涙を指先でそっと拭う。
「笑って」
その一言に、胸がきゅっとなる。
私は涙を拭いながら、頷いた。
「うん」
拓実が笑う。
私も笑う。
制服のリボンの代わりに結ばれた、シルバーのネクタイ。
それは、今日卒業する拓実が、私に残してくれたもの。
高校生活最後の日。
私たちの一年間を包んでくれた、たくさんの思い出と一緒に。
「拓実」
「ん?」
「卒業、おめでとう」
「ありがとう、瑠夏」
拓実が、もう一度優しく笑う。
その笑顔を、私は忘れないように心に焼きつけた。
桜の季節には、まだ少し早い。
それでも。
拓実の高校生活は、今日、確かに終わった。
そして――。
私たちの未来は、まだ始まったばかりだった。
体育館には、いつもとは違う空気が流れていた。
壇上には卒業証書。
整然と並べられた椅子。
その一番前に座る卒業生たちの中に、拓実がいる。
いつもなら、少し離れた場所にいるだけで見つけられるのに。
今日は、なんだか遠く感じた。
瑠夏は、送辞を読むために壇上へ向かう。
一歩。
また一歩。
マイクの前に立つ。
客席に並ぶ在校生。
その前にいる卒業生。
瑠夏の視線が、拓実を捉えた。
目が合う。
拓実が、いつものように優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間。
胸の奥に、たくさんの記憶が蘇った。
初めて出会った文化祭。
一緒に準備をした時間。
二人で笑ったこと。
抱きしめてもらったこと。
一緒に見た花火。
一年記念日に渡したプレゼント。
怪我をした日。
進路の話をして、泣いた日。
そして――。
受験へ向かう拓実を、新幹線のホームで見送った日。
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
寂しかったこと。
その全部が、今日という日に繋がっている。
瑠夏は、胸の奥に込み上げてくるものをそっと飲み込んだ。
まだ、泣かない。
今日は、卒業生を送り出す日だから。
瑠夏は小さく息を吸った。
そして、送辞を読み始める。
卒業生への感謝。
これまでの思い出。
これから始まる未来への言葉。
一つひとつ、心を込めて伝える。
声が震えそうになるたびに、前を見る。
その先にいる拓実を見る。
拓実は、何も言わずに私を見つめていた。
その目が、優しく笑っている。
大丈夫。
そう言ってくれているような気がした。
最後の言葉を読み終える。
「卒業生の皆さん、本当にありがとうございました」
深く頭を下げる。
大きな拍手が体育館に響いた。
顔を上げた瞬間。
拓実と、もう一度目が合った。
拓実が小さく頷く。
私は微笑んで、壇上を降りた。
今度は、卒業生代表の答辞。
拓実が立ち上がる。
その姿を見た瞬間、また胸がいっぱいになった。
拓実が壇上へ向かう。
マイクの前に立つ。
そして、答辞を読み始めた。
落ち着いた声。
穏やかで、優しい声。
いつも私に話しかけるときと同じ声だった。
高校生活の思い出。
先生や友達への感謝。
これから始まる新しい生活への決意。
その言葉を聞きながら、私は何度も涙を拭った。
今日で、この学校を卒業する。
拓実にとっても。
私にとっても。
大切な場所。
たくさんの思い出が詰まった場所。
答辞が終わる。
拓実が深く一礼する。
体育館いっぱいに拍手が響いた。
私も、涙を流しながら拍手をした。
拓実が壇上を降りる。
その横顔を見つめながら思う。
――本当に、卒業なんだ。
* * *
式が終わった校庭は、笑顔でいっぱいだった。
卒業生たちは友達と写真を撮ったり、先生と話したり、後輩から花束を受け取ったりしている。
あちらこちらから笑い声が聞こえる。
私は人の少ない場所で、拓実を待っていた。
しばらくして、拓実がこちらへ歩いてくる。
「瑠夏」
「拓実」
名前を呼んだだけなのに、胸が熱くなる。
「送辞、ありがとう」
「ううん」
私は首を横に振った。
「すごく緊張した」
「知ってる」
「分かったの?」
「ずっと見てたから」
拓実が笑う。
その笑顔が、やっぱり好き。
「答辞も……すごくよかった」
「ありがとう」
しばらく二人で見つめ合う。
何を話せばいいのか分からない。
今日という日が終わってしまうのが、少し寂しい。
拓実が、校舎を見上げた。
「……ここで過ごすのも、今日で最後か」
「……うん」
拓実が、ふっと私を見る。
「瑠夏」
「ん?」
「これ、あげる」
そう言って、拓実は首元に手をかけた。
シルバーのネクタイ。
ゆっくりと結び目を緩め、ネクタイを外していく。
「え……?」
拓実は外したネクタイを手にしたまま、私の前に立った。
「ちょっと、顔上げて」
「……うん」
拓実の指が、私の制服のリボンに触れる。
留め具を外して、首元からそっとリボンを外してくれた。
そして、その代わりに――。
自分のネクタイを私の首にかける。
「じっとしてて」
「……うん」
拓実の指が、私の首元でネクタイを結んでいく。
慣れた手つきで結び目を整え、最後にそっと位置を直した。
「……似合う」
「本当?」
「ああ」
拓実が優しく笑う。
胸元にあるのは、さっきまで拓実が身につけていたシルバーのネクタイ。
それを見つめていると、胸の奥がじんと熱くなった。
「ありがとう……」
「卒業しても、持ってて」
「うん」
その言葉を聞いた瞬間、我慢していた涙が頬を伝った。
拓実が、そんな私を見つめる。
そして――。
私をそっと抱きしめた。
胸に頬を寄せる。
聞こえてくる鼓動。
いつもと同じ。
安心する音。
「ありがとう」
耳元で、拓実の声がする。
「俺と一緒にいてくれて」
涙が、また溢れた。
「私のほうこそ……ありがとう」
拓実の背中に腕を回す。
「一年間、ずっと幸せだった」
「俺も」
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
「これからも、ずっと大切にする」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
しばらくして、拓実がゆっくりと腕を離した。
そして、私の涙を指先でそっと拭う。
「笑って」
その一言に、胸がきゅっとなる。
私は涙を拭いながら、頷いた。
「うん」
拓実が笑う。
私も笑う。
制服のリボンの代わりに結ばれた、シルバーのネクタイ。
それは、今日卒業する拓実が、私に残してくれたもの。
高校生活最後の日。
私たちの一年間を包んでくれた、たくさんの思い出と一緒に。
「拓実」
「ん?」
「卒業、おめでとう」
「ありがとう、瑠夏」
拓実が、もう一度優しく笑う。
その笑顔を、私は忘れないように心に焼きつけた。
桜の季節には、まだ少し早い。
それでも。
拓実の高校生活は、今日、確かに終わった。
そして――。
私たちの未来は、まだ始まったばかりだった。