君のとなり〜拓実と〜

第46章 リベンジ

 青葉カップ当日。

去年と同じ大会。

でも、私の気持ちは去年とは違っていた。

去年は、ボールを落とした。

あの瞬間の悔しさは、今でも覚えている。

だから――今年こそ。

絶対に優勝したい。

大会が始まり、私は出番を待っていた。

緊張で、手のひらが少し汗ばんでいる。

大丈夫。

そう自分に言い聞かせても、心臓は速いままだった。

そのとき――

ふと、客席を見る。

いた。

拓実がいた。

目が合う。

拓実が、私に向かって小さく頷いた。

それだけだった。

なのに、不思議なくらい身体の力が抜けていく。

大丈夫。

拓実が見ていてくれる。

私は深く息を吸った。

名前を呼ばれる。

演技が始まる。

音楽が流れる。

身体が、音楽に合わせて動き出す。

腕を大きく伸ばす。

長い手足をしなやかに使い、ひとつひとつの動きを繋げていく。

ボールを転がす。

身体の上を滑らせる。

そして、高く投げる。

ボールが宙を舞う。

その下をくぐり抜けるように身体を回転させ、再び手の中へ。

次の動きへ。

さらに大きく跳ぶ。

脚を左右へ大きく開く。

180度を超える開脚ジャンプ。

空中で伸びきった身体が、音楽の一部になる。

着地。

そのまま流れるように身体を回し、ボールを受け取る。

まるで――

ボールが意思を持って、私と一緒に踊っているみたいだった。

転がる。

跳ねる。

宙を舞う。

そして私も、その動きに合わせるように身体を動かす。

ひとつひとつの技を繋ぎながら、演技は終盤へ向かっていく。

そして――

最後の大きな投げ。

ボールを高く、高く放り上げる。

その瞬間。

去年の記憶が、一瞬だけ蘇った。

――落とした。

あの悔しさ。

あの涙。

でも。

今年は違う。

私は片脚を軸にして、もう一方の脚を後ろへ大きく引き上げる。

アチチュード。

身体をしなやかに伸ばしながら、視線は前へ。

ボールは私の背後へ落ちてくる。

一瞬。

ほんの一瞬だけ、怖くなる。

でも――

大丈夫。

拓実が見ている。

私は手を後ろへ伸ばす。

そして――

ぱしっ。

背面で、ボールをキャッチした。

成功。

客席から、大きな拍手が沸き起こる。

その中で、拓実が立ち上がっている。

笑っている。

私に向かって、何度も頷いている。

その姿が見えた瞬間、胸の奥が熱くなった。

まだ終わりじゃない。

最後のポーズへ。

身体を止める。

音楽が終わる。

一瞬の静寂。

そして――

大きな拍手。

私はゆっくり息を吐いた。

終わった。

やり切った。

去年、落としたボール。

今年は、最後まで離さなかった。

結果発表を待つ。

胸がドキドキする。

そして――

「優勝は――」

名前が呼ばれた。

「……え?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

私?

優勝……?

去年は二位だった。

今年は――

優勝。

「……やった……」

涙が溢れた。

嬉しい。

悔しくて泣いた去年とは違う。

今年は、嬉しくて泣いている。

表彰を終えると、私は真っ先に拓実のところへ向かった。

「拓実!」

「瑠夏、おめでとう」

「……優勝した」

「うん。ちゃんと見てた」

その言葉を聞いた瞬間、涙がまた溢れてくる。

「拓実のおかげだよ」

「俺?」

「うん。拓実がいてくれたから、緊張がとけたの」

拓実が、優しく笑った。

「そっか」

そして、私の頭をそっと撫でる。

「じゃあ、帰ってきてよかった」

「うん……」

「去年、悔しかったもんな」

「うん。すごく悔しかった」

「でも今年は、ちゃんとリベンジできたな」

「うん」

「瑠夏が一年間、頑張ったからだよ」

その言葉に、胸がいっぱいになる。

「でも……拓実が見ててくれたから」

「じゃあ、これからもずっと見てる」

「……ずっと?」

「うん。瑠夏が頑張ってるところも、笑ってるところも」

拓実が私の手を握る。

「全部、見てたい」

胸が、きゅっと締めつけられた。

離れていた時間。

会えなかった寂しさ。

全部、この瞬間のためだったみたいに思える。

「……拓実」

「ん?」

「今日、来てくれてありがとう」

「当たり前だろ」

そう言って、拓実は笑った。

「瑠夏の大事な大会なんだから」

その言葉に、また涙が出そうになる。

去年は、悔し涙。

今年は――

拓実の隣で、嬉し涙。

私は笑いながら、拓実の手をぎゅっと握った。

「……大好き」

「俺も」

離れていても。

会えない日があっても。

私たちは、ちゃんと繋がっている。

そして今日。

私は、去年の自分に勝った。

青葉カップ――優勝。

最高のリベンジだった。
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