君のとなり〜拓実と〜
第48章 次のステージへ
高校生活の集大成となる、夏の大会が始まった。
市内大会、県大会と、順調に勝ち上がっていく。
そして――
いよいよ明日は、ブロック大会。
ここを勝ち抜けば、インターハイ。
早めに寝ようと思ってベッドに入ったものの、なかなか寝付けなかった。
「はぁ……眠れない」
何度寝返りを打っても、目が冴えてしまう。
そんなとき、スマホが震えた。
拓実からだった。
『明日、大会だったよね』
『応援に行けなくてごめんな』
『遠くからだけど、瑠夏が全力を出せるように祈ってる』
『頑張れ』
その言葉と一緒に、写真が一枚送られてきた。
そこに写っていたのは――クマのぬいぐるみ。
左手首には、リボン結びのハチマキ。
「……え?」
私は思わず、自分の枕元を見る。
そこにも、同じクマのぬいぐるみ。
しかも――
左手首には、私が結んだリボン。
「……ふふっ」
思わず笑ってしまった。
私はクマを手に取る。
そして、写真を撮った。
私のクマにも、左手首にリボン結びのハチマキ。
さらに首には、シルバーのネクタイ。
『私もだよ』
写真を送る。
すぐに既読がついた。
『……同じじゃん』
『え?』
『クマ』
『拓実も?』
『うん』
『……ふふっ』
『ふふっ』
二人で同じことをしていたことがおかしくて、また笑ってしまう。
離れているのに。
同じクマに、同じようにハチマキを結んでいる。
「……なんか、おかしいね」
『うん』
それだけで、胸が少し軽くなった。
私はクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
今夜は、この子と一緒に眠ろう。
拓実からの応援を胸に――。
「おやすみ、拓実」
『おやすみ、瑠夏』
スマホを置いて、クマを抱きしめる。
明日は、大丈夫。
そんな気がした。
*
翌朝。
ブロック大会へ向かう道中。
私は――
緊張を通り越して、少しおかしくなっていた。
「ねえ……」
隣にいる部員に話しかける。
「フープにカバー付けるとさ……」
「うん?」
「……おっきな缶のパイナップルに見えない?」
「…………はぁ?」
「ほら。缶詰のパイナップル」
「何言ってんの?」
みんなの視線が集まる。
顧問まで振り返った。
「瑠夏、大丈夫か?」
「……うん」
「魂戻ってこい」
「え?」
次の瞬間。
部員たちが一斉に笑い出した。
「瑠夏、緊張しすぎ!」
「大丈夫、大丈夫!」
「本番前に壊れないでよ!」
笑い声に包まれて、私もようやく笑った。
緊張している。
怖い。
でも――
ここまで来た。
会場に到着すると、その大きさに圧倒された。
観客席。
選手たち。
張り詰めた空気。
ここにいる誰もが、インターハイを目指している。
私だって同じ。
クラブのコーチが言ってくれた。
――この構成なら、インターハイも狙える。
その言葉を信じて。
ここまで頑張ってきた自分を信じて。
私は、今できる精一杯の演技をする。
音楽が始まった。
緊張で身体が強張りそうになる。
それでも、一つずつ動きを繋いでいく。
途中、多少のミスはあった。
一瞬、焦った。
それでも、止まらない。
最後まで――。
音楽が終わった。
演技を終えた瞬間、全身から力が抜けた。
完璧じゃなかった。
でも、今の私にできることは、全部やった。
あとは、祈るしかない。
結果発表。
一人ずつ、名前が読み上げられていく。
私は息を止めた。
そして――
インターハイ進出者の中に、自分の名前があった。
「……やった」
声にならない。
胸がいっぱいになる。
嬉しい。
本当に、嬉しい。
インターハイに行ける。
そして――
今年の開催地は、関東。
拓実がいる場所。
「……拓実に会える」
そう思った瞬間、胸が高鳴った。
*
その日の夜。
俺はアルバイトを終え、スマホを確認した。
瑠夏からメールが一件。
『拓実、大事な話があるの』
――大事な話?
その一文を、何度も読み返した。
何だ?
こんな時間に。
何かあったのか?
今日、大会だったよな。
まさか、怪我でもした?
胸の奥がざわつく。
すぐに返信する。
『大事な話って何?』
送信。
返事を待つ。
……来ない。
スマホを握ったまま、もう一度画面を見る。
まだ来ない。
数分しか経っていない。
分かっている。
分かっているのに――
嫌な想像ばかりが浮かんでくる。
大会で何かあったのか。
体調を崩した?
それとも――
俺に言いにくいこと?
スマホを持つ手に、力が入る。
もう一度、画面を見る。
何も変わっていない。
「……瑠夏」
思わず名前がこぼれた。
お願いだから、何かあったなんて言わないでくれ。
やっと、次に会える日を約束したのに。
やっと、少しだけ寂しくなくなってきたと思っていたのに。
そのとき、スマホが震えた。
瑠夏からだった。
『あのね、夏休みに帰ってくるって約束、守らなくていいよ』
――え?
指先が、ぴくっと震えた。
何度読み返しても、同じ言葉。
約束を――守らなくていい?
手が震える。
スマホを落としそうになって、慌てて握り直した。
「……なんで?」
声が掠れる。
どういうことだ?
俺、何かした?
瑠夏を傷つけた?
それとも――
もう、俺に会いたくない?
考えたくもない言葉が、頭の中に浮かぶ。
胸が苦しい。
『なんで?』
震える指で打つ。
『どういうこと?』
送信。
すぐに返事が欲しい。
なのに、来ない。
「瑠夏……」
スマホを握る手が、さらに震える。
電話をかけようか。
でも、怖い。
電話に出た瑠夏から、聞きたくない言葉を聞くのが怖かった。
そんな不安の中で、スマホがまた震えた。
『私、インターハイ出場が決まったの』
「……え?」
インターハイ?
頭の中が追いつかない。
そして、次のメール。
『だから――』
一瞬、画面を見つめる。
続けて、もう一通。
『私が関東に行くよ』
「…………」
しばらく、画面を見つめた。
やがて。
その意味が、ゆっくり胸に染み込んでくる。
……そういうことか。
帰ってこなくていい。
だって――
瑠夏が、俺のいる関東へ来てくれる。
「……なんだよ」
全身から力が抜けた。
安堵した途端、笑いが込み上げてくる。
「……びっくりさせんなよ」
さっきまで震えていた手で、スマホを握り直す。
今度は、嬉しくて手が震えそうだった。
俺は、すぐに電話をかけた。
『もしもし?』
「瑠夏……」
声を聞いた瞬間、胸がいっぱいになる。
「……本当に心配した」
『ごめんね』
「手、震えたんだから」
『え……?』
「大事な話があるって言われて」
「そのあと、約束守らなくていいなんて言われたら……」
言葉が詰まる。
「……もう、二度とそんなこと言わないで」
『ごめん……』
「……でも」
声が自然と柔らかくなる。
「インターハイ出場、おめでとう」
『ありがとう』
「頑張ったな、瑠夏」
『うん』
「それで……関東に来るんだ?」
『うん』
「俺に会いに?」
電話の向こうが、少し静かになる。
『……うん』
その一言だけで、胸が熱くなった。
「……嬉しい」
『私も』
「夏休みには帰るつもりだったけど」
少し笑う。
「帰らなくていいって言われたのに、こんなに嬉しいの初めてだ」
『ふふっ』
「だって、瑠夏が来てくれるんだろ?」
『うん』
「じゃあ――」
自然と声が弾む。
「今度は俺が待ってる」
『約束ね』
「ああ、約束」
「関東で、絶対会おう」
『うん』
「会ったら……」
一瞬、言葉を止める。
「いっぱい抱きしめる」
電話の向こうで、瑠夏が小さく息を呑んだ。
『……私も』
その声が、たまらなく愛しかった。
さっきまでの不安なんて、もうどこにもない。
ただ――
早く会いたい。
それだけだった。
夏が来るのが、待ち遠しい。
今度は――
瑠夏が、俺のいる場所へ来てくれる。
市内大会、県大会と、順調に勝ち上がっていく。
そして――
いよいよ明日は、ブロック大会。
ここを勝ち抜けば、インターハイ。
早めに寝ようと思ってベッドに入ったものの、なかなか寝付けなかった。
「はぁ……眠れない」
何度寝返りを打っても、目が冴えてしまう。
そんなとき、スマホが震えた。
拓実からだった。
『明日、大会だったよね』
『応援に行けなくてごめんな』
『遠くからだけど、瑠夏が全力を出せるように祈ってる』
『頑張れ』
その言葉と一緒に、写真が一枚送られてきた。
そこに写っていたのは――クマのぬいぐるみ。
左手首には、リボン結びのハチマキ。
「……え?」
私は思わず、自分の枕元を見る。
そこにも、同じクマのぬいぐるみ。
しかも――
左手首には、私が結んだリボン。
「……ふふっ」
思わず笑ってしまった。
私はクマを手に取る。
そして、写真を撮った。
私のクマにも、左手首にリボン結びのハチマキ。
さらに首には、シルバーのネクタイ。
『私もだよ』
写真を送る。
すぐに既読がついた。
『……同じじゃん』
『え?』
『クマ』
『拓実も?』
『うん』
『……ふふっ』
『ふふっ』
二人で同じことをしていたことがおかしくて、また笑ってしまう。
離れているのに。
同じクマに、同じようにハチマキを結んでいる。
「……なんか、おかしいね」
『うん』
それだけで、胸が少し軽くなった。
私はクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
今夜は、この子と一緒に眠ろう。
拓実からの応援を胸に――。
「おやすみ、拓実」
『おやすみ、瑠夏』
スマホを置いて、クマを抱きしめる。
明日は、大丈夫。
そんな気がした。
*
翌朝。
ブロック大会へ向かう道中。
私は――
緊張を通り越して、少しおかしくなっていた。
「ねえ……」
隣にいる部員に話しかける。
「フープにカバー付けるとさ……」
「うん?」
「……おっきな缶のパイナップルに見えない?」
「…………はぁ?」
「ほら。缶詰のパイナップル」
「何言ってんの?」
みんなの視線が集まる。
顧問まで振り返った。
「瑠夏、大丈夫か?」
「……うん」
「魂戻ってこい」
「え?」
次の瞬間。
部員たちが一斉に笑い出した。
「瑠夏、緊張しすぎ!」
「大丈夫、大丈夫!」
「本番前に壊れないでよ!」
笑い声に包まれて、私もようやく笑った。
緊張している。
怖い。
でも――
ここまで来た。
会場に到着すると、その大きさに圧倒された。
観客席。
選手たち。
張り詰めた空気。
ここにいる誰もが、インターハイを目指している。
私だって同じ。
クラブのコーチが言ってくれた。
――この構成なら、インターハイも狙える。
その言葉を信じて。
ここまで頑張ってきた自分を信じて。
私は、今できる精一杯の演技をする。
音楽が始まった。
緊張で身体が強張りそうになる。
それでも、一つずつ動きを繋いでいく。
途中、多少のミスはあった。
一瞬、焦った。
それでも、止まらない。
最後まで――。
音楽が終わった。
演技を終えた瞬間、全身から力が抜けた。
完璧じゃなかった。
でも、今の私にできることは、全部やった。
あとは、祈るしかない。
結果発表。
一人ずつ、名前が読み上げられていく。
私は息を止めた。
そして――
インターハイ進出者の中に、自分の名前があった。
「……やった」
声にならない。
胸がいっぱいになる。
嬉しい。
本当に、嬉しい。
インターハイに行ける。
そして――
今年の開催地は、関東。
拓実がいる場所。
「……拓実に会える」
そう思った瞬間、胸が高鳴った。
*
その日の夜。
俺はアルバイトを終え、スマホを確認した。
瑠夏からメールが一件。
『拓実、大事な話があるの』
――大事な話?
その一文を、何度も読み返した。
何だ?
こんな時間に。
何かあったのか?
今日、大会だったよな。
まさか、怪我でもした?
胸の奥がざわつく。
すぐに返信する。
『大事な話って何?』
送信。
返事を待つ。
……来ない。
スマホを握ったまま、もう一度画面を見る。
まだ来ない。
数分しか経っていない。
分かっている。
分かっているのに――
嫌な想像ばかりが浮かんでくる。
大会で何かあったのか。
体調を崩した?
それとも――
俺に言いにくいこと?
スマホを持つ手に、力が入る。
もう一度、画面を見る。
何も変わっていない。
「……瑠夏」
思わず名前がこぼれた。
お願いだから、何かあったなんて言わないでくれ。
やっと、次に会える日を約束したのに。
やっと、少しだけ寂しくなくなってきたと思っていたのに。
そのとき、スマホが震えた。
瑠夏からだった。
『あのね、夏休みに帰ってくるって約束、守らなくていいよ』
――え?
指先が、ぴくっと震えた。
何度読み返しても、同じ言葉。
約束を――守らなくていい?
手が震える。
スマホを落としそうになって、慌てて握り直した。
「……なんで?」
声が掠れる。
どういうことだ?
俺、何かした?
瑠夏を傷つけた?
それとも――
もう、俺に会いたくない?
考えたくもない言葉が、頭の中に浮かぶ。
胸が苦しい。
『なんで?』
震える指で打つ。
『どういうこと?』
送信。
すぐに返事が欲しい。
なのに、来ない。
「瑠夏……」
スマホを握る手が、さらに震える。
電話をかけようか。
でも、怖い。
電話に出た瑠夏から、聞きたくない言葉を聞くのが怖かった。
そんな不安の中で、スマホがまた震えた。
『私、インターハイ出場が決まったの』
「……え?」
インターハイ?
頭の中が追いつかない。
そして、次のメール。
『だから――』
一瞬、画面を見つめる。
続けて、もう一通。
『私が関東に行くよ』
「…………」
しばらく、画面を見つめた。
やがて。
その意味が、ゆっくり胸に染み込んでくる。
……そういうことか。
帰ってこなくていい。
だって――
瑠夏が、俺のいる関東へ来てくれる。
「……なんだよ」
全身から力が抜けた。
安堵した途端、笑いが込み上げてくる。
「……びっくりさせんなよ」
さっきまで震えていた手で、スマホを握り直す。
今度は、嬉しくて手が震えそうだった。
俺は、すぐに電話をかけた。
『もしもし?』
「瑠夏……」
声を聞いた瞬間、胸がいっぱいになる。
「……本当に心配した」
『ごめんね』
「手、震えたんだから」
『え……?』
「大事な話があるって言われて」
「そのあと、約束守らなくていいなんて言われたら……」
言葉が詰まる。
「……もう、二度とそんなこと言わないで」
『ごめん……』
「……でも」
声が自然と柔らかくなる。
「インターハイ出場、おめでとう」
『ありがとう』
「頑張ったな、瑠夏」
『うん』
「それで……関東に来るんだ?」
『うん』
「俺に会いに?」
電話の向こうが、少し静かになる。
『……うん』
その一言だけで、胸が熱くなった。
「……嬉しい」
『私も』
「夏休みには帰るつもりだったけど」
少し笑う。
「帰らなくていいって言われたのに、こんなに嬉しいの初めてだ」
『ふふっ』
「だって、瑠夏が来てくれるんだろ?」
『うん』
「じゃあ――」
自然と声が弾む。
「今度は俺が待ってる」
『約束ね』
「ああ、約束」
「関東で、絶対会おう」
『うん』
「会ったら……」
一瞬、言葉を止める。
「いっぱい抱きしめる」
電話の向こうで、瑠夏が小さく息を呑んだ。
『……私も』
その声が、たまらなく愛しかった。
さっきまでの不安なんて、もうどこにもない。
ただ――
早く会いたい。
それだけだった。
夏が来るのが、待ち遠しい。
今度は――
瑠夏が、俺のいる場所へ来てくれる。