君のとなり〜拓実と〜
第57章 お雑煮、食べていって
年が明けた。
今年も、拓実と初詣に来た。
境内は、たくさんの人で賑わっている。
「瑠夏」
「ん?」
「ちょっとこっち」
拓実に手を引かれて、お守りが並んでいる場所へ向かう。
「どうしたの?」
「お守り、選ぼうと思って」
「お守り?」
「うん」
拓実が並んでいるお守りを見渡す。
「去年、瑠夏が俺に選んでくれただろ?」
「……覚えてたの?」
「忘れるわけないじゃん」
そう言って、拓実が笑う。
「今年は俺が選ぶ」
「……私に?」
「うん」
拓実がひとつのお守りを手に取った。
「これ」
差し出されたのは、合格祈願のお守りだった。
「……ありがとう」
受け取ったお守りを、そっと両手で包む。
「去年、私が拓実に選んだから?」
「それもあるけど」
拓実が少しだけ照れたように笑う。
「瑠夏に持っててほしかったから」
「……拓実」
「試験の日も、ちゃんと持ってて」
「うん」
「俺の代わりに、そばにいるから」
「ふふっ」
「何?」
「なんか、拓実らしいなって思って」
「そう?」
「うん」
お守りを胸元に抱える。
去年、私が選んだお守り。
今年は、拓実が私のために選んでくれた。
それだけで、胸の奥がぽっと温かくなった。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
繋いだ手を、拓実がぎゅっと握る。
冷たい空気の中。
その手だけが、ぽかぽかしていた。
*
「送ってくれて、ありがとう」
「うん」
家の前まで来る。
「じゃあ、またね」
「うん。また連絡する」
拓実が手を振る。
私も手を振り返して、玄関へ向かおうとした。
「瑠夏」
「ん?」
「あけましておめでとう」
「ふふっ。今?」
「ちゃんと言ってなかったから」
「……あけましておめでとう、拓実」
「今年もよろしく」
「うん。今年もよろしくね」
笑い合って、私は玄関のドアに手をかけた。
そのとき――。
「あら、拓実くん?」
母が玄関まで出てきた。
「あけましておめでとうございます」
拓実が笑顔で頭を下げる。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「はい」
「拓実くん、寒かったでしょう?」
「大丈夫です」
「よかったら、上がっていかない?」
「え?」
「お雑煮、食べていって」
「……いいんですか?」
「もちろん」
母がにこっと笑う。
「ちょうど作ったところだから」
拓実が私を見る。
私は笑って頷いた。
「食べていこうよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「どうぞ」
拓実が玄関に上がる。
その横顔が、ほんの少しだけ緊張している。
「拓実、緊張してる?」
「……ちょっとだけ」
「ふふっ」
「だって、初めてだし」
「大丈夫だよ」
「うん」
靴を脱いで、私の後ろをついてくる。
でも――。
「お父さん、拓実くん来たよ」
「おう。拓実くん、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
「まぁ、座れ座れ」
「はい」
父のその一言に、拓実の表情がふっと柔らかくなる。
「瑠夏、そこ座って」
「うん」
私の隣に拓実が座る。
さっきまで少し固かった肩の力も、もう抜けていた。
「お雑煮、できたわよ」
「ありがとうございます」
「はい、どうぞ」
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせる。
拓実がお雑煮を一口食べて――。
「……美味しいです」
「ほんと? よかった」
母が嬉しそうに笑う。
「お餅、もう一つ食べる?」
「あ、お願いします」
「ふふっ。はい」
「ありがとうございます」
そのやり取りに、思わず笑ってしまう。
「何?」
拓実が私を見る。
「ううん。なんか嬉しいなって」
「何が?」
「拓実がここにいるの」
「……俺も」
拓実が小さく笑う。
その笑顔を見ていると、心までふわっと温かくなる。
「拓実くん、関東での生活はどう?」
母が尋ねる。
「どうって?」
「大変じゃない? こっちとは違うでしょう?」
「最初はちょっと大変でしたけど、もう慣れました」
「そう。よかった」
「大学も楽しい?」
「はい。友達もできましたし」
「それなら安心ね」
父も頷く。
「一人暮らしにも慣れたか?」
「はい。なんとか」
「そうか」
いつの間にか、拓実もすっかり自然に笑っている。
さっきまでの緊張なんて、もうどこにもない。
私はその横顔を眺めながら、ふふっと笑った。
「瑠夏も、来年は――」
「お母さん」
思わず遮る。
「あら」
母が私を見る。
「……ふふっ」
何も言わずに、母が笑った。
私も小さく笑う。
拓実は、何も知らないままお雑煮を食べている。
そのことが、なんだか少しおかしくて。
「拓実くん、お餅もう一つ食べる?」
「はい」
「ふふっ。いっぱい食べてね」
「ありがとうございます」
お正月の朝。
家の中には、湯気と笑い声が広がっている。
その中に拓実がいる。
それだけで――。
なんだか、幸せだった。
今年も、拓実と初詣に来た。
境内は、たくさんの人で賑わっている。
「瑠夏」
「ん?」
「ちょっとこっち」
拓実に手を引かれて、お守りが並んでいる場所へ向かう。
「どうしたの?」
「お守り、選ぼうと思って」
「お守り?」
「うん」
拓実が並んでいるお守りを見渡す。
「去年、瑠夏が俺に選んでくれただろ?」
「……覚えてたの?」
「忘れるわけないじゃん」
そう言って、拓実が笑う。
「今年は俺が選ぶ」
「……私に?」
「うん」
拓実がひとつのお守りを手に取った。
「これ」
差し出されたのは、合格祈願のお守りだった。
「……ありがとう」
受け取ったお守りを、そっと両手で包む。
「去年、私が拓実に選んだから?」
「それもあるけど」
拓実が少しだけ照れたように笑う。
「瑠夏に持っててほしかったから」
「……拓実」
「試験の日も、ちゃんと持ってて」
「うん」
「俺の代わりに、そばにいるから」
「ふふっ」
「何?」
「なんか、拓実らしいなって思って」
「そう?」
「うん」
お守りを胸元に抱える。
去年、私が選んだお守り。
今年は、拓実が私のために選んでくれた。
それだけで、胸の奥がぽっと温かくなった。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
繋いだ手を、拓実がぎゅっと握る。
冷たい空気の中。
その手だけが、ぽかぽかしていた。
*
「送ってくれて、ありがとう」
「うん」
家の前まで来る。
「じゃあ、またね」
「うん。また連絡する」
拓実が手を振る。
私も手を振り返して、玄関へ向かおうとした。
「瑠夏」
「ん?」
「あけましておめでとう」
「ふふっ。今?」
「ちゃんと言ってなかったから」
「……あけましておめでとう、拓実」
「今年もよろしく」
「うん。今年もよろしくね」
笑い合って、私は玄関のドアに手をかけた。
そのとき――。
「あら、拓実くん?」
母が玄関まで出てきた。
「あけましておめでとうございます」
拓実が笑顔で頭を下げる。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「はい」
「拓実くん、寒かったでしょう?」
「大丈夫です」
「よかったら、上がっていかない?」
「え?」
「お雑煮、食べていって」
「……いいんですか?」
「もちろん」
母がにこっと笑う。
「ちょうど作ったところだから」
拓実が私を見る。
私は笑って頷いた。
「食べていこうよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「どうぞ」
拓実が玄関に上がる。
その横顔が、ほんの少しだけ緊張している。
「拓実、緊張してる?」
「……ちょっとだけ」
「ふふっ」
「だって、初めてだし」
「大丈夫だよ」
「うん」
靴を脱いで、私の後ろをついてくる。
でも――。
「お父さん、拓実くん来たよ」
「おう。拓実くん、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
「まぁ、座れ座れ」
「はい」
父のその一言に、拓実の表情がふっと柔らかくなる。
「瑠夏、そこ座って」
「うん」
私の隣に拓実が座る。
さっきまで少し固かった肩の力も、もう抜けていた。
「お雑煮、できたわよ」
「ありがとうございます」
「はい、どうぞ」
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせる。
拓実がお雑煮を一口食べて――。
「……美味しいです」
「ほんと? よかった」
母が嬉しそうに笑う。
「お餅、もう一つ食べる?」
「あ、お願いします」
「ふふっ。はい」
「ありがとうございます」
そのやり取りに、思わず笑ってしまう。
「何?」
拓実が私を見る。
「ううん。なんか嬉しいなって」
「何が?」
「拓実がここにいるの」
「……俺も」
拓実が小さく笑う。
その笑顔を見ていると、心までふわっと温かくなる。
「拓実くん、関東での生活はどう?」
母が尋ねる。
「どうって?」
「大変じゃない? こっちとは違うでしょう?」
「最初はちょっと大変でしたけど、もう慣れました」
「そう。よかった」
「大学も楽しい?」
「はい。友達もできましたし」
「それなら安心ね」
父も頷く。
「一人暮らしにも慣れたか?」
「はい。なんとか」
「そうか」
いつの間にか、拓実もすっかり自然に笑っている。
さっきまでの緊張なんて、もうどこにもない。
私はその横顔を眺めながら、ふふっと笑った。
「瑠夏も、来年は――」
「お母さん」
思わず遮る。
「あら」
母が私を見る。
「……ふふっ」
何も言わずに、母が笑った。
私も小さく笑う。
拓実は、何も知らないままお雑煮を食べている。
そのことが、なんだか少しおかしくて。
「拓実くん、お餅もう一つ食べる?」
「はい」
「ふふっ。いっぱい食べてね」
「ありがとうございます」
お正月の朝。
家の中には、湯気と笑い声が広がっている。
その中に拓実がいる。
それだけで――。
なんだか、幸せだった。