君のとなり〜拓実と〜
第59章 大事な話があるの
合格発表の日。
私は、朝から落ち着かなかった。
スマートフォンを何度も手に取っては、画面を消す。
そして、意を決して大学の合格発表ページを開いた。
受験番号を入力する。
指先が、少し震えた。
WEBのページを開いた。
画面を確認した私は、そのままお母さんのところへ向かった。
「お母さん」
「どうしたの?」
私は、お母さんに結果を伝えた。
「分かった。お父さんにはお母さんから伝えておくわね」
「うん」
それだけ言って、自分の部屋へ戻る。
スマートフォンを握る。
拓実に、言わなきゃ。
私はメール画面を開いた。
その頃、拓実はスマートフォンを見ていた。
瑠夏からメールが届いている。
『拓実、大事な話があるの』
その文字を見た瞬間、ふと手が止まった。
――この言葉。
どこかで聞いたことがある。
そうだ。
前にも、瑠夏から同じメールが来た。
あのときは、インターハイに出場することが決まったという話だった。
だから今回も、何か驚かせるようなことなのかと思った。
けれど。
次のメールを開いた瞬間、その考えは消えた。
『もう、私に会いに帰ってこなくていいよ』
「……え?」
私に会いに帰ってこなくていい。
その言葉が、頭の中に引っかかった。
なんで?
瑠夏は、何を言ってるんだ?
大学の進路が決まる時期だから、何か関係があるのかもしれない。
でも――。
俺、何かした?
最近のメールを思い返してみる。
何か変なことを言ったか。
瑠夏を傷つけるようなことをしたか。
思い当たらない。
それなのに、嫌な考えばかりが浮かんでくる。
好きな人ができた?
その瞬間、胸の奥がざわついた。
まさか。
いや。
そんなこと――。
瑠夏は、俺を好きだと言ってくれた。
離れていても、ちゃんと繋がっている。
そう信じてきた。
それでも。
俺の知らないところで、誰かと出会っていたら?
ふと、別の名前が頭をよぎる。
――翔。
「……っ」
すぐに首を振った。
違う。
瑠夏は、翔への気持ちには区切りをつけた。
俺のことを選んでくれた。
分かってる。
分かってるのに、一度浮かんだ名前が消えてくれない。
じゃあ、どうして?
どうして私に会いに帰ってこなくていいなんて言う?
俺たちは、離れていても恋人だった。
会えない時間があっても、ちゃんと繋がっている。
そう思っていた。
なのに――。
スマートフォンが震えた。
新しいメール。
『私達、もう遠距離恋愛を続ける必要がなくなったと思う』
「…………」
言葉が出なかった。
遠距離恋愛を続ける必要がない。
その意味を考える。
会いに帰ってこなくていい。
遠距離恋愛を続ける必要もない。
じゃあ――。
俺たちは?
まさか。
別れるってことなのか?
そんな考えが浮かんだ瞬間、胸の奥が痛くなった。
嫌だ。
そんなの、嫌に決まってる。
でも、瑠夏がそう望んでいるなら――。
俺は、どうすればいい?
俺、何かした?
もっとちゃんと連絡すればよかった?
会えるときに、もっと会えばよかった?
受験で大変な瑠夏に、何か無理をさせた?
考えても考えても、答えが出ない。
ただ一つだけ分かる。
瑠夏を失いたくない。
それだけだった。
指先が止まる。
それでも、聞くしかなかった。
『……瑠夏』
何度も迷って。
ようやく、送った。
『それって……別れたいってこと?』
送信したあと。
拓実はスマートフォンを握ったまま、動けなかった。
返信が怖い。
もし――。
『うん』
そう返ってきたら。
俺は、どうすればいい?
スマートフォンが震えた。
「……っ」
恐る恐る画面を見る。
『違うよ』
「……え?」
一瞬、思考が止まった。
違う?
じゃあ、何?
次のメールが届く。
『私』
指が止まる。
『関東の大学に行く!』
「…………」
意味を理解するまで、ほんの少し時間がかかった。
そして、そのすぐ下に写真が届いた。
大学名。
瑠夏の名前。
その横に――合格の文字。
「…………」
拓実は、画面を見つめたまま動かなかった。
合格。
瑠夏が。
関東の大学に。
俺と同じ関東に来る。
「……そういうことかよ」
その瞬間。
身体から、一気に力が抜けた。
「……っ」
立っていた拓実の膝が、ふらつく。
そのままソファに腰を落とした。
いや。
腰を抜かすって、こういうことか。
さっきまで。
本当に、瑠夏を失うと思っていた。
俺が何かしたのかもしれない。
好きな人ができたのかもしれない。
まさか、翔なのかもしれない。
別れたいのかもしれない。
そこまで考えていた。
なのに――。
「……関東って」
思わず、笑いがこぼれた。
目の奥が熱くなる。
「……びっくりさせんなよ」
そう呟いた声が、少し震えた。
俺は、瑠夏に電話をかけた。
今は、ちゃんと声を聞きたかった。
呼び出し音が鳴る。
そして。
『もしもし?』
「……瑠夏」
『拓実?』
「うん」
その声を聞いた瞬間。
胸の奥に残っていた不安が、ゆっくりほどけていった。
「瑠夏、おめでとう」
『……ありがとう』
嬉しそうな声。
それを聞くだけで、また目の奥が熱くなる。
「……本当に、よかった」
『うん』
「関東に来るんだな」
『うん』
少しだけ沈黙があった。
「……なぁ、瑠夏」
『ん?』
「次からさ」
『うん?』
「『大事な話がある』って送るの、やめてくれない?」
『え?』
「俺、あの言葉見るたびに寿命縮むんだけど」
『……ふふっ』
「笑い事じゃないから」
『ごめん』
少し間があって。
『びっくりさせてごめん』
その声が、優しく響いた。
『拓実、大好きだよ』
「……っ」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
さっきまで、失うと思っていた。
それなのに。
今、瑠夏が俺に「大好き」と言ってくれている。
目の奥が熱くなって、思わず俯いた。
「……俺も」
声が少し掠れた。
「俺も、瑠夏が大好き」
『……うん』
電話の向こうで、瑠夏が笑った。
その声を聞いているだけで、幸せだった。
「瑠夏」
『ん?』
「関東で待ってる」
『……うん』
「春になったら、迎えに行くから」
『うん』
今度こそ。
春が待ち遠しい。
離れていた時間の先に。
瑠夏がいる。
そう思うだけで、胸がいっぱいになった。
私は、朝から落ち着かなかった。
スマートフォンを何度も手に取っては、画面を消す。
そして、意を決して大学の合格発表ページを開いた。
受験番号を入力する。
指先が、少し震えた。
WEBのページを開いた。
画面を確認した私は、そのままお母さんのところへ向かった。
「お母さん」
「どうしたの?」
私は、お母さんに結果を伝えた。
「分かった。お父さんにはお母さんから伝えておくわね」
「うん」
それだけ言って、自分の部屋へ戻る。
スマートフォンを握る。
拓実に、言わなきゃ。
私はメール画面を開いた。
その頃、拓実はスマートフォンを見ていた。
瑠夏からメールが届いている。
『拓実、大事な話があるの』
その文字を見た瞬間、ふと手が止まった。
――この言葉。
どこかで聞いたことがある。
そうだ。
前にも、瑠夏から同じメールが来た。
あのときは、インターハイに出場することが決まったという話だった。
だから今回も、何か驚かせるようなことなのかと思った。
けれど。
次のメールを開いた瞬間、その考えは消えた。
『もう、私に会いに帰ってこなくていいよ』
「……え?」
私に会いに帰ってこなくていい。
その言葉が、頭の中に引っかかった。
なんで?
瑠夏は、何を言ってるんだ?
大学の進路が決まる時期だから、何か関係があるのかもしれない。
でも――。
俺、何かした?
最近のメールを思い返してみる。
何か変なことを言ったか。
瑠夏を傷つけるようなことをしたか。
思い当たらない。
それなのに、嫌な考えばかりが浮かんでくる。
好きな人ができた?
その瞬間、胸の奥がざわついた。
まさか。
いや。
そんなこと――。
瑠夏は、俺を好きだと言ってくれた。
離れていても、ちゃんと繋がっている。
そう信じてきた。
それでも。
俺の知らないところで、誰かと出会っていたら?
ふと、別の名前が頭をよぎる。
――翔。
「……っ」
すぐに首を振った。
違う。
瑠夏は、翔への気持ちには区切りをつけた。
俺のことを選んでくれた。
分かってる。
分かってるのに、一度浮かんだ名前が消えてくれない。
じゃあ、どうして?
どうして私に会いに帰ってこなくていいなんて言う?
俺たちは、離れていても恋人だった。
会えない時間があっても、ちゃんと繋がっている。
そう思っていた。
なのに――。
スマートフォンが震えた。
新しいメール。
『私達、もう遠距離恋愛を続ける必要がなくなったと思う』
「…………」
言葉が出なかった。
遠距離恋愛を続ける必要がない。
その意味を考える。
会いに帰ってこなくていい。
遠距離恋愛を続ける必要もない。
じゃあ――。
俺たちは?
まさか。
別れるってことなのか?
そんな考えが浮かんだ瞬間、胸の奥が痛くなった。
嫌だ。
そんなの、嫌に決まってる。
でも、瑠夏がそう望んでいるなら――。
俺は、どうすればいい?
俺、何かした?
もっとちゃんと連絡すればよかった?
会えるときに、もっと会えばよかった?
受験で大変な瑠夏に、何か無理をさせた?
考えても考えても、答えが出ない。
ただ一つだけ分かる。
瑠夏を失いたくない。
それだけだった。
指先が止まる。
それでも、聞くしかなかった。
『……瑠夏』
何度も迷って。
ようやく、送った。
『それって……別れたいってこと?』
送信したあと。
拓実はスマートフォンを握ったまま、動けなかった。
返信が怖い。
もし――。
『うん』
そう返ってきたら。
俺は、どうすればいい?
スマートフォンが震えた。
「……っ」
恐る恐る画面を見る。
『違うよ』
「……え?」
一瞬、思考が止まった。
違う?
じゃあ、何?
次のメールが届く。
『私』
指が止まる。
『関東の大学に行く!』
「…………」
意味を理解するまで、ほんの少し時間がかかった。
そして、そのすぐ下に写真が届いた。
大学名。
瑠夏の名前。
その横に――合格の文字。
「…………」
拓実は、画面を見つめたまま動かなかった。
合格。
瑠夏が。
関東の大学に。
俺と同じ関東に来る。
「……そういうことかよ」
その瞬間。
身体から、一気に力が抜けた。
「……っ」
立っていた拓実の膝が、ふらつく。
そのままソファに腰を落とした。
いや。
腰を抜かすって、こういうことか。
さっきまで。
本当に、瑠夏を失うと思っていた。
俺が何かしたのかもしれない。
好きな人ができたのかもしれない。
まさか、翔なのかもしれない。
別れたいのかもしれない。
そこまで考えていた。
なのに――。
「……関東って」
思わず、笑いがこぼれた。
目の奥が熱くなる。
「……びっくりさせんなよ」
そう呟いた声が、少し震えた。
俺は、瑠夏に電話をかけた。
今は、ちゃんと声を聞きたかった。
呼び出し音が鳴る。
そして。
『もしもし?』
「……瑠夏」
『拓実?』
「うん」
その声を聞いた瞬間。
胸の奥に残っていた不安が、ゆっくりほどけていった。
「瑠夏、おめでとう」
『……ありがとう』
嬉しそうな声。
それを聞くだけで、また目の奥が熱くなる。
「……本当に、よかった」
『うん』
「関東に来るんだな」
『うん』
少しだけ沈黙があった。
「……なぁ、瑠夏」
『ん?』
「次からさ」
『うん?』
「『大事な話がある』って送るの、やめてくれない?」
『え?』
「俺、あの言葉見るたびに寿命縮むんだけど」
『……ふふっ』
「笑い事じゃないから」
『ごめん』
少し間があって。
『びっくりさせてごめん』
その声が、優しく響いた。
『拓実、大好きだよ』
「……っ」
胸の奥が、ぎゅっとなる。
さっきまで、失うと思っていた。
それなのに。
今、瑠夏が俺に「大好き」と言ってくれている。
目の奥が熱くなって、思わず俯いた。
「……俺も」
声が少し掠れた。
「俺も、瑠夏が大好き」
『……うん』
電話の向こうで、瑠夏が笑った。
その声を聞いているだけで、幸せだった。
「瑠夏」
『ん?』
「関東で待ってる」
『……うん』
「春になったら、迎えに行くから」
『うん』
今度こそ。
春が待ち遠しい。
離れていた時間の先に。
瑠夏がいる。
そう思うだけで、胸がいっぱいになった。