その青は沈む
 病院へ入ったら、妹の姿はなくて、辺りを見たけど、慌ただしさもなかった。受付に聞いてみようかと思って、すぐ立ち止まった。そして、受付前に並んだ長椅子の端に座った。

 足を組んでから、腕を組んで、受付の上にある時計を見上げる。長針がないせいで、時間が進んでいるのか分からなかった。周りを見たり、また時計を見たりして、少し苛ついていた。膝の上を指先で叩きながら、そのまま一拍も置かずに続けた。
 
 しばらくその場所で待っていたら、妹がほっとした顔で戻ってきた。

「お兄ちゃん、待たせてごめん。先生の話聞いてから、佐伯さんの所に行ってきた」

「そっか。じゃあ、僕は帰ろうかな」明るく言ったら、妹は「会っていかないの?」と聞いてきた。

「日を改めて来るよ。手術したばかりで会っても、まともに話せないだろうし」そう言いながら、内心では『というか、こんな時に会っても、どんな顔すればいいんだよ……』と思って、少し笑ってみせた。

「そっか。ありがと。気をつけてね。また連絡する」そう言って、妹も笑ってくれたけど、顔は心細そうに見えた。

 僕はそばにいたいけど、あいつがここにいるなら、引くしかない。心配することもないはずだ。

「わかった。またね」僕は妹を見てから、病院から出て、駐車場へ行った。

 車に乗ってから駐車場を出て、走りながら、近くでお洒落なカフェを見つけた。少し気休めでもしようかと、カフェの駐車場に車を停めた。
 店に入って、メニューを見ていたら、店員が来て注文を尋ねてきた。セットものを頼んで、ついでに温かいコーヒーも頼んだ。

 夏のせいか、店の中は冷房が効きすぎていて、僕には寒かった。腕まくりした袖を戻して、窓の外を少し見上げた。青空は広がっていたけど、遠くのほうから灰色の雲が近づいていた。季節の変わり目は天気が崩れやすいと、天気予報で聞いた気がする。そんなことを考えてるうちに、食事がテーブルの上に置かれた。

「いただきます」と呟くように言ってから、箸を持って、食事をした。終えた頃に、また窓のほうを向いたら、雨がぽつんと当たって、疎らな水玉がすぐに川のように流れていた。

 その時、僕は昔の思い出を振り返っていた。

 小さい頃に、雨の中を新しい長靴を履いて出かけた。水たまりを避けて歩いて、汚れないように気をつけていた。けど、どこからかいじめっ子がやってきて、泥水を長靴にかけた。そこで喧嘩になって、押し倒されて、泣いてしまった。そしたら、妹がやってきて、相手を思いっきり叩いて、「あっちいけ」と怒って言った。

 相手はすぐに帰ったけど、僕は妹に向かって、「叩いたらダメ」と叱った。でも、妹は憎たらしい顔をして、「おにいちゃんのばーか」と言った。

 あの顔は忘れてないけど、未だに可愛らしいと思える。多分、いや、この気持ちはずっと変わらない。妹と出会えて、心から良かったと思えた。
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