その青は沈む
 その日のうちに、仮歌を聴いて、歌を録った。何度もやり直したり、時には言い合いをした。お互い熱くなって、日を跨いだこともあった。そうして、一曲ずつ丁寧に作っていたら、あっという間に日々が過ぎて、最後の曲を録り直していた。そして……。

「よく出来てる。おつかれさま」彼の低い声がブース内に流れた。

僕がブースから出たら、彼は「このあと予定あるのか」と聞いてきた。すぐに携帯の着信とメールを確認してから、「特にない」と答えた。

「柚月が海見たいらしいから、お前も来い」彼は言ってから、煙草をくわえて、椅子から立った。

 そう言えば、ベランダで季節を感じてから、どれくらい経ったのか分からなくなっていたけど、彼の話を聞いて、まだ変わってないことを知った。

「なんか食べ物とか買ってく?」そう聞くと、彼は「いや、いい。長居はしない予定だ」と言って、個室から出ていった。

 それもそうかと思って、僕も個室から出ていったら、受付にいた妹が僕を見て言った。

「ねぇ、翔太からも言って……。もう、耳が取れそう……」
 妹は僕のほうへ来て、身を寄せてから、肩の近くで頭を傾けた。

「なに言ったんだよ」僕は少し眉を寄せて、彼に聞いた。なのに妹が言い出した。

「すぐ席を立つな、とか、水分は摂ったのか、とか……。もう……、お兄ちゃん変わって」
 妹は苛ついてはないけど、相当心配されてるようだ。

「いや、僕が言っても……」と言いながら彼を見ると、目が合ったけど、すぐに逸らされた。

『お前がいらんこと言うからじゃろうがい』と目に力を込めたけど、彼は飴を口にして、そっぽを向いた。

「まぁ、佐伯も悪気があるわけじゃないし、ね」そう言ったけど、妹は不服そうにしていた。すぐそばで彼は少しニヤついていた。

『いや、お前のせいでこうなってるんだが?』と思って、少しふざけるつもりで言った。

「龍騎くん、あまり細かく言っても、柚月の体調に響くんじゃないかな」
 多分、いま僕は妹の父親みたいな立ち位置かもしれない。けど、他の誰でもない。僕は僕でしかなく、妹にとっては兄だ。

「すみません、おにいさん」彼は格好つけて、わざと「おにいさん」を強調したけど、少し笑ってるのを僕は見逃さなかった。

「おにいちゃんでもいいけど?」とふざけたら、彼は「黙れ、行くぞ」と言って、妹の手を優しく取って、足元を気にしながら歩いていった。

 僕は二人の後ろを歩きながら、妹の手を取る日が近づいてるかもしれないと思った。
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