その青は沈む
2章
 あの夏の終わりの日の帰りに、僕は家電屋でカメラを買った。妹の出産までは活躍する場はなかったけど、子どもが生まれる日に初めて使った。

 その日は分娩室の前で、彼と廊下を行ったり来たりして、何度もすれ違っていた。

「ちょっと、落ち着けよ」と僕が言ったら、「お前こそ、座ってろよ」と乱暴に言った。

 同じようなやりとりを何度か繰り返すうちに、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。その瞬間、二人して同じ顔をした。そしたら、看護師が来て、僕に向かって「元気な男の子ですよ。お母さんも元気です」と言った。

 僕は気まずくなって、彼を見たけど、その顔は心から良かったと言っていた。

 時間を置いて、彼と一緒に個室へ行ったら、妹が小さな子どもを抱いていた。その姿は、世界で一番に愛しさに溢れていた。僕はカメラを向けて、シャッターを切る。気づいた妹が僕を見てはにかんだ。

 妹は彼を見て、恥ずかしそうな顔をしながら、子どもを彼に向けて、「抱っこして、みて」と言った。

 彼は戸惑いながら、おそるおそる子どもを受け取って、そっと腕に抱いた。子どもを抱えながら泣きそうで、嬉しそうな、なんとも言えない表情をしていた。そして、彼は真っ直ぐ妹を見て言った。

「本当に、ありがとう」

 そんな彼を見たら、シャッターなんて押せなかった。僕はこの日、この場所にいられることを幸せに思えた。

 あまり長居をしないように、一声掛けてから、個室を出た。

 その日を境に、お互い忙しくなって、連絡の頻度も減った。けど、子どものイベントごとに、呼び出されて、カメラを持っていった。

 幼少期から一歳を越えて、二歳、三歳と年を重ね、五歳になる目前の頃。

 妹から子どもが通う幼稚園へ迎えに行ってほしいと頼まれて、迎えに行ったら、一目散に駆けてきた。

「翔太おにーちゃん!」

「こら、優輝。走らない」

「ごめんなさい……」

「よくできました。じゃあ、行こうか」

 小さな手をそっと握って、園を出る時に彼の噂話を耳にした。どうやら保護者の間でも、彼はモテているようだ。見た目だけは……、いや、あれは演じてるだけだと言ってやりたかった。けど、面白そうだから黙って聞き耳を立てて、その場をあとにした。

 「翔太おにーちゃん、ぼく公園いきたい」と子どもが言うから、「じゃあ、少しだけね」と言って、公園に向かった。

 公園に着いたら、子どもは僕の手をすぐに離して、駆け足でブランコに行った。僕も追いかけて、子どもが乗ったのを確認してから、ゆっくり背中を押した。

 小さな背中をそっと押しながら、空を見上げると、とても綺麗な青が広がっていた。
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