流れ星に願いをこめて。
「紗月」

「え?」

「今、高校二年?」

「そうだけど」

「やっぱり」

 やっぱりって。
 それだけで、ちゃんと覚えていてくれたんだとわかる。

「玲央くんは?」

「同じ」

「そっか」

 会話は短いのに、ひとつひとつがうれしい。
 そんな自分が少し悔しい。

 前を向いたまま歩いていると、通りの向こうから数人の男子が笑いながら歩いてくるのが見えた。
 その中のひとりが、わたしに気づいてぱっと表情を明るくする。

「あれ、紗月じゃん」

 同じクラスの男子だった。
 たまたま塾帰りが重なることがあるくらいで、特別仲がいいわけではない。
 わたしは軽く手を振った。

「こんばんは」

「珍しいね、こんな時間に。ていうか、その人彼氏?」

「えっ」

 思わず足が止まる。
 その瞬間、隣の空気が少しだけ変わった気がした。

「違うよ」

 すぐにそう返したけれど、なぜか声がほんの少し上ずる。
 男子は冗談っぽく笑って、じゃあまた明日なと言い残して友達と去っていった。

 足音が遠ざかってから、妙に静かな沈黙が落ちる。

 なにこの空気。
 さっきより、ずっと歩きにくい。

 ちらっと隣を見ると、玲央くんはまっすぐ前を見たまま、少しだけ口元を引き結んでいた。

「……彼氏じゃないんだ」

「え?」

 低い声でそう言われて、思わず聞き返す。

「いや」

「なに、それ」

「別に」

 別に、の言い方が全然別にじゃない。
 わたしは目を瞬かせてから、だんだんおかしくなってきた。

「もしかして、気にした?」

「してない」

「早いね、否定」

「してない」

 少しむきになる言い方に、思わず笑ってしまう。
 すると彼は、わずかに眉を寄せてわたしを見た。

「笑うなよ」

「だって」

「……紗月」

 名前を呼ばれて、笑いかけた息が止まる。

 玲央くんは少しだけ言いにくそうに視線をそらした。
 それから、ほんの少し間を置いて口を開く。

「男といるとこ、見たことなかったから」

 その一言に、胸がどくんと鳴る。

 それって。
 どう受け取っても、少しは気にしてくれたってことだよね。

 なのに玲央くんは、自分で言ったくせに気まずそうな顔をしている。
 クールなくせに、こういうところは昔から変わらない。
 言葉が足りなくて、不器用で、でもごまかし方も下手なくらいまっすぐだ。

「玲央くんこそ」

「なに」

「女の子に人気ありそう」

「……は?」

「だって、背高いし、顔もいいし、なんか冷たそうに見えるのにやさしいし」

 言ってから、自分で何を言ってるんだろうと恥ずかしくなる。
 でも、引っ込めるには遅すぎた。

 玲央くんは珍しく目を見開いて、それからふっと視線を落とした。

「紗月」

「な、なに」

「それ、無自覚で言ってるならやめた方がいい」

「え」

「……こっちが困る」

 心臓が、跳ねる。
 顔が熱い。
 夜でよかったと、本気で思った。

 しばらく何も言えなくなってしまって、ふたりで並んで歩く足音だけが静かに響く。
 でもその沈黙はもうさっきまでとは違っていた。
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