戦闘狂の新妻
 オーガストは招待状を受け取り、目を通した。

 スミス公爵家が主催する社交パーティの招待状で、オーガストとリリーの名が並んで記されていた。


「スミス公爵閣下はブルグマンシア伯爵家とも親交がおありです。奥方とも面識がおありでしょう。比較的友好的に受け入れられる可能性の高い場でございます。奥方を辺境伯夫人としてお披露目なさいませ」

「リリーを戦利品のように見せびらかすつもりはない」


 オーガストは顔をしかめた。

 家令は意に介する様子もなく淡々と続ける。


「社交パーティに参加なさるために、奥様には旦那様と揃いのドレスを仕立てる必要がございます」

「そうだなあ。僕の妻は、きっと面倒くさがるだろうなあ」


 そう言うオーガストの表情がやけに嬉しそうなのを見て、家令は静かに目を細めた。

***

 その日の夜。夕食の席でオーガストからパーティの話を聞いたリリーは顔をしかめた。


「嫌ですけど」

「ダメだ。いいじゃないか。たまには着飾ればいい」

「そういう問題じゃないんですよ」


 事実、そういう問題ではなかった。

 パーティで母親に再会する可能性がある。もし会わずとも、噂好きの貴族の婦女子たちから母のことや戦闘狂と呼ばれるオーガストのことを聞かれるだろうし、女好きの令息たちからも母同様の男好きだと思われて声をかけられるだろう。……王都にいたころのように。

 リリーは深くため息をついた。


「旦那様がわたくしを妻と認めていないのは存じておりますが……そうですね、パーティの間、片時も離れないでいただけるなら、参加しましょう。……それも、務めですものね」


 あまりにリリーがやさぐれた顔をするものだから、オーガストは「そんなことはない」と言い損ねた。

 代わりに侍女を呼び寄せ、リリーのデザートを多めに盛り付けるよう指示した。


「参加するのであれば、意匠を揃えたドレスが必要になる。明日以降、採寸をするからそのつもりでいてくれ」

「はあい」

「ドレスへの要望は?」

「……露出が少なくて、なるべく地味なものがいいです」

「承知した。僕としても派手なものは気が気じゃない」


 リリーは給仕が運んできた山盛りのデザートの皿に目を丸くし、そのまま驚いた顔をオーガストへ向けた。


「そうなんですか?」

「そうだよ」

「そ、そうなんですか……」


 リリーは慌てて目を伏せ、デザートを食べ始めた。
 オーガストはその耳がうっすら赤く染まっているのに気づき、何も言わずに自分の分のデザートの皿をリリーの方へ押し出した。


< 14 / 23 >

この作品をシェア

pagetop