戦闘狂の新妻
 挨拶回りが終わり、最後にスミス公爵に再度挨拶をして屋敷を出た。

 公爵には泊まっていくことを勧められたが、領地を長く空けられないのでオーガストが丁重に断った。


「はー……」


 リリーは馬車の座席に沈み込み、深く息を吐いた。

 窓の外では王都の街灯が流れていく。

 賑やかな笑い声も楽団の演奏も遠ざかり、馬車の中には車輪の軋む音だけが残った。


「お疲れ様。そつのない対応に感謝する」


 オーガストのやけにかしこまった労いに、リリーは肩をすくめた。

 しょせん自分は、彼から何の期待もされていない小娘だ。

 母との会話を引きずっている自覚があったので、リリーは短く答えた。


「どういたしまして」

「今日は王都内のタウンハウスで休んでいこうか。僕の妻はお疲れのようだから」

「……子ども扱いしないでください。これくらい大丈夫です」


 つい棘のある言い方をした。

 オーガストはわずかに目を見開いたが、すぐに苦笑まじりの微笑みを浮かべた。その顔を見て、リリーはむっとした。

 自分が年下だから。

 幼いから。

 あの毒花のような母の娘だから。だからオーガストはリリーを子ども扱いし、いつまでも妻として認めてくれないのではないか。

 リリーは眉間に力を入れて、口を開きかけた。

 その瞬間、馬車の扉が外から激しく叩かれた。

 オーガストがすぐに扉を開ける。

 扉の向こうでは、ペンバートンの兵士が馬を駆って並走していた。


「旦那様にご報告申し上げます! ペンバートン東部の浜辺に海賊船が上陸しました!」

「門は」


 オーガストが短く問う。


「すべて閉じました」

「よろしい。僕が戻るまで、持ちこたえられるな?」

「むろんでございます」

 リリーはオーガストの横から顔を出した。


「私の寝室の明かりをつけてちょうだい」


 オーガストが顔をしかめた。


「なぜ?」

「誘蛾灯ですわ。ふふ、わたくしの仕掛けた植物たちの出番ね、早く帰らなくちゃ」


 兵士は一瞬目を丸くしたが、すぐにニヤッと笑った。


「承知いたしました奥方。奥方の計画通りに」


 兵士が馬を蹴り、馬車から離れた。

 オーガストは扉を閉めると、リリーをまじまじと見つめた。


「君は、本当に母上によく似ている」


 リリーは今度こそ舌打ちをした。


「やめてください。わたくし、あの人のこと大嫌いなんです」


 オーガストは心底おかしそうに笑った。


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