戦闘狂の新妻
 二人がサンドイッチを食べ終えたころ、家令が顔を出した。


「旦那様、奥方。無事のお戻り、何よりでございます。現在の戦況をお伝えいたします」


 家令はペンバートンの地図を厨房のテーブルに広げた。


「門はすべて閉門済み、住民は各自の家へ避難させております。地下通路を使い、城から水と食事を毎朝配布しております」

「海賊と聞いたが」

「はい。帆船が二隻。最近、南国で暴れ回っていると聞く連中のようです。襲撃当初は城への侵入を試みておりましたが、松と笹の防壁に阻まれ失敗に終わっております。その後も松を切り払おうとしては松ヤニで刃物を駄目にし、笹を踏んでは足を滑らせ、ことごとく失敗しております」

「我が兵は」

「城壁からの投石、投槍、弓射にて応戦しております。籠城戦ゆえ大きな被害はなく、怪我人もおりません。襲撃当初に負傷した者はおりましたが、すでに回復済みです」


 オーガストは「ふむ」と頷いた。


「このまま籠城して普段通りの生活に戻ってもいいが……いや、畑仕事ができないな。さて、我が妻はどう思う?」

「試したい火薬があるのですが」

「好きにしなさい。ただし、事前に作戦内容は僕に伝えるように」


 リリーはむっとしてオーガストを見上げた。


「子ども扱いではないですか」

「まさか」


 オーガストが目を細めてリリーを見返した。


「夫として、我が有能なる妻に好きに腕を振るえる箱庭を用意しただけだよ」


 リリーの瞳が輝いた。


「そのお言葉に、二言はございませんわね?」

「……ない」

「ありがとうございます、旦那様。すぐに用意いたします。ふふ、火薬はどのくらい使ってよろしいのかしら。どうやって毒を飲ませてやろうかしら」


 リリーが鼻歌交じりで厨房を出て行く。

 家令と厨房長が、同時にオーガストへ視線を向けた。


「……まあ、リリーにも最低限の分別はあるだろう。たぶん。あ、待て、リリー! 川や海に毒を流してはいけないからな!?」

「善処します!」

「善処!?」


 オーガストが慌ててリリーを追いかける。その背を見送りながら、家令と厨房長は顔を見合わせて笑った。


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