忘却華の契約婚
驚きと驚きと出逢い
―すごく温かい。
身体が、まるでふわふわと柔らかなものに包まれているようだった。心地がよい。
ずっとこのままでいたい。
そう、かすかに感じ取った瞬間私は、はっと目を覚ました。
頭がズキズキとするので、額を手で押さえる。
(ここはどこでしょうか?)
ゆっくりと、仰向きだった身体を起こし、自分の周りを見渡した。
部屋全体には、真っ白な寝具が置かれている。
自分の寝ていたベットのすぐ隣には小さな棚があった。棚の上には、紫色の可愛らしい花が花瓶に一輪だけ飾られていた。誰かが、置いてくれたのであろうか。
花瓶から視線を外し、窓の方へ顔を向ける。
窓の向こうには、大きな木が見えた。木々は幾重にも枝を伸ばし、青々とした葉を重ねている。その隙間から覗く空は、どこまでも澄んだ青だった。
ふと、頭上から眩しい光が差し込む。太陽がちょうど木々の向こうにあり、まるで天から光の柱が降り注いでいるかのようだった。
葉の一枚一枚が陽光を受けて輝き、風が吹くたび、木漏れ日が草原の上で揺れる。
緩やかな丘には、柔らかな緑の草が一面に広がっていた。木々の長い影が、その上を静かに伸びている。
「目が覚めたのね!」
背後から声をかけられ、思わずビクンっと肩を跳ねさせた。そして、そろっと後ろを見る。
「あらあらごめんなさいね。驚かすつもりはなかったの。あなた、9日間も眠っていたからつい…。」
ロング丈のワンピースに、純白のエプロンと帽子を被った女性は、申し訳なさそうに笑う。
かすかに薬品の匂いがするのは気のせいだろうか。
「…あっ、あの!!ここはどこでしょうか!?そして、あなたは…、」
気付けば、縋るように言葉を発していた。
「ここは病院よ。私はここの看護師をしているの。」
「…私は、何故病院にいるのですか?」
「森で倒れていたそうよ。九条様という軍人の方がここに連れてきて下さったの。」
「…。そうだったのですね。」
(えっ、待って待って何で森で倒れてたのですか!?全く思い出せないのですが…。)
一生懸命思い出そうとするが、記憶が本当にない。
頭の中が真っ白で何も見えない。記憶が、綺麗さっぱり抜け落ちてしまったように。
「それよりもまずは、お粥食べない??お腹空いているでしょ?すぐに作って持ってくるから。」
「あ、ありがとうございます。お願いします。」
確かにお腹は空いている。胃酸が出て来て吐き気がする。気分が良くないと思っていたが、正体はこれかと自分で答えを見つけるのであった。
親切な看護師さんは、部屋から出て行き、私はもう一度横になった。
(どうしましょう…。)
考えることが山ほどある。私は、森で何をしていたのか。
(お腹すいたなあ)
そもそも、自分がどこへ帰ればいいのかすら分からない。
(お腹がぁ…)
どうやって暮らしていくのか。
(早くお粥がたべた…。わっ、いけないいけない。)
空腹のあまり、気が紛れてしまう。
(よしっ!食べてからしっかり考えましょう!!!)
考えることに疲れ、そのままベットに倒れ込んだ。
もう一眠りつこうとした矢先、大きな足音がこちらに近づいて来るのであった。
(もしかしてご飯でしょうか!?)
しかし、さっきの看護師さんの華奢な体からは、こんな大きな音は鳴らないはず。
(まぁ、私には関係ない事でしょう!)
そう自分に言い聞かせ、目を瞑る。足音は、相変わらず近づいてくるが、気にしない。
おまけに、足音の主がこの部屋に入ってきたようだ。
しばらくして、足音はピタリと止んだ。
関係ないと言ってもやはり気になるもので、そろりと目を開けるはずが、
「………ヒィっ!????」
思わずガっと目を開けてしまった。
知らない男の人が、自分の顔を覗き込んでいるのだ。
「…、目覚めたか。体調の方はどうだ?」
「えっと…元気です?あの、どちら様でしょうか?」
大の字で受け答えしている自分の無様な格好が恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
「そうか。それなら良かった。私は、帝国退魔部隊の隊長を務めている九条桐夜だ。」
(もしかして、例の軍人様ってこの方かな……??)
よく彼の顔を見てみると、顔立ちが整っており、この世の者とは思えないほどの美貌であった。
さらに、透き通るような美しい瞳には、私の顔がしっかりと映っていた。
「さて、聞きたい事がいくつかある。まずは、君の名を教えてくれないか?」
私は、直ぐに起き上がりベットの上で体勢を正座に変える。
「はい。えっと、私の名前は―……、、、。」
(ん??)
うまく言葉が出なかったようだ。もう一度。
「私の名前は―。あれ?」
(えっえっ?名前が出てこないよ!!??)
確かに、森で何をしていたのかさっぱり記憶は無かったが、まさか自分の名前さえ記憶が無いとは考えていなかった。
「すみません。私の名前って、何でしたっけ?」
何がどうなっているのか分からず、思った事をとりあえず口にしてみたた。
桐夜様は、そんな姿の私を見て眉間にしわを寄せながら手を顎に添える。
「…もしかして、だが。君、記憶喪失なんじゃないか?」
「えっ、えええーー!」
出会って間も無い、軍人様はとんでもない事を口にしたのであった。まさかの、"記憶喪失"で衝撃が強かったからか、間抜けな声を出してしまった。
そんな、右往左往している私に九条様は宥めるように言った。
「落ち着け。一応聞いておくが名前以外で覚えている事は無いか?」
「お腹が空いていることは覚えています。」
「…それは、記憶ではない」
「ですよね。」
しゅんと肩を落とした。
なぜだか、胸の奥が締めつけられた。
「……。」
九条様は呆れたように息を吐くと、また話を続ける。
「分かった。では―。」
「九条隊長!!ご報告です!!」
次のひと言を出そうとした瞬間、九条様ではない違う人の声により遮られてしまった。
「天照大神様がお呼びです。今すぐ本部へと。」
私は、九条様の、顔をちらりと見る。九条様の顔が一瞬、強張ったように感じたからだ。
「そうか。すぐに向かう。…悪いが君も、ついて来てくれ。」
「へっ!?」
断りを入れようとするが、お腹に圧迫感を感じた。
そして、ふわっと視界が持ち上がった。視線がいつもより高いことに気づく。
「………あの」
「なんだ?」
「私、今どうなっています?」
私は、どこか遠い目をしながら今の状況を確かめるように聞いてみた。
「担いでいる」
男は平然と答えるのであった。動きをとめる気配はない。私にも、色々と思うことはあるが一番頭に残っているのは
(お粥が食べたい)
それだけだった。
「…ごめんなさい。親切な看護師さん。」
少女は、独り言のように嘆くのであった。
身体が、まるでふわふわと柔らかなものに包まれているようだった。心地がよい。
ずっとこのままでいたい。
そう、かすかに感じ取った瞬間私は、はっと目を覚ました。
頭がズキズキとするので、額を手で押さえる。
(ここはどこでしょうか?)
ゆっくりと、仰向きだった身体を起こし、自分の周りを見渡した。
部屋全体には、真っ白な寝具が置かれている。
自分の寝ていたベットのすぐ隣には小さな棚があった。棚の上には、紫色の可愛らしい花が花瓶に一輪だけ飾られていた。誰かが、置いてくれたのであろうか。
花瓶から視線を外し、窓の方へ顔を向ける。
窓の向こうには、大きな木が見えた。木々は幾重にも枝を伸ばし、青々とした葉を重ねている。その隙間から覗く空は、どこまでも澄んだ青だった。
ふと、頭上から眩しい光が差し込む。太陽がちょうど木々の向こうにあり、まるで天から光の柱が降り注いでいるかのようだった。
葉の一枚一枚が陽光を受けて輝き、風が吹くたび、木漏れ日が草原の上で揺れる。
緩やかな丘には、柔らかな緑の草が一面に広がっていた。木々の長い影が、その上を静かに伸びている。
「目が覚めたのね!」
背後から声をかけられ、思わずビクンっと肩を跳ねさせた。そして、そろっと後ろを見る。
「あらあらごめんなさいね。驚かすつもりはなかったの。あなた、9日間も眠っていたからつい…。」
ロング丈のワンピースに、純白のエプロンと帽子を被った女性は、申し訳なさそうに笑う。
かすかに薬品の匂いがするのは気のせいだろうか。
「…あっ、あの!!ここはどこでしょうか!?そして、あなたは…、」
気付けば、縋るように言葉を発していた。
「ここは病院よ。私はここの看護師をしているの。」
「…私は、何故病院にいるのですか?」
「森で倒れていたそうよ。九条様という軍人の方がここに連れてきて下さったの。」
「…。そうだったのですね。」
(えっ、待って待って何で森で倒れてたのですか!?全く思い出せないのですが…。)
一生懸命思い出そうとするが、記憶が本当にない。
頭の中が真っ白で何も見えない。記憶が、綺麗さっぱり抜け落ちてしまったように。
「それよりもまずは、お粥食べない??お腹空いているでしょ?すぐに作って持ってくるから。」
「あ、ありがとうございます。お願いします。」
確かにお腹は空いている。胃酸が出て来て吐き気がする。気分が良くないと思っていたが、正体はこれかと自分で答えを見つけるのであった。
親切な看護師さんは、部屋から出て行き、私はもう一度横になった。
(どうしましょう…。)
考えることが山ほどある。私は、森で何をしていたのか。
(お腹すいたなあ)
そもそも、自分がどこへ帰ればいいのかすら分からない。
(お腹がぁ…)
どうやって暮らしていくのか。
(早くお粥がたべた…。わっ、いけないいけない。)
空腹のあまり、気が紛れてしまう。
(よしっ!食べてからしっかり考えましょう!!!)
考えることに疲れ、そのままベットに倒れ込んだ。
もう一眠りつこうとした矢先、大きな足音がこちらに近づいて来るのであった。
(もしかしてご飯でしょうか!?)
しかし、さっきの看護師さんの華奢な体からは、こんな大きな音は鳴らないはず。
(まぁ、私には関係ない事でしょう!)
そう自分に言い聞かせ、目を瞑る。足音は、相変わらず近づいてくるが、気にしない。
おまけに、足音の主がこの部屋に入ってきたようだ。
しばらくして、足音はピタリと止んだ。
関係ないと言ってもやはり気になるもので、そろりと目を開けるはずが、
「………ヒィっ!????」
思わずガっと目を開けてしまった。
知らない男の人が、自分の顔を覗き込んでいるのだ。
「…、目覚めたか。体調の方はどうだ?」
「えっと…元気です?あの、どちら様でしょうか?」
大の字で受け答えしている自分の無様な格好が恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
「そうか。それなら良かった。私は、帝国退魔部隊の隊長を務めている九条桐夜だ。」
(もしかして、例の軍人様ってこの方かな……??)
よく彼の顔を見てみると、顔立ちが整っており、この世の者とは思えないほどの美貌であった。
さらに、透き通るような美しい瞳には、私の顔がしっかりと映っていた。
「さて、聞きたい事がいくつかある。まずは、君の名を教えてくれないか?」
私は、直ぐに起き上がりベットの上で体勢を正座に変える。
「はい。えっと、私の名前は―……、、、。」
(ん??)
うまく言葉が出なかったようだ。もう一度。
「私の名前は―。あれ?」
(えっえっ?名前が出てこないよ!!??)
確かに、森で何をしていたのかさっぱり記憶は無かったが、まさか自分の名前さえ記憶が無いとは考えていなかった。
「すみません。私の名前って、何でしたっけ?」
何がどうなっているのか分からず、思った事をとりあえず口にしてみたた。
桐夜様は、そんな姿の私を見て眉間にしわを寄せながら手を顎に添える。
「…もしかして、だが。君、記憶喪失なんじゃないか?」
「えっ、えええーー!」
出会って間も無い、軍人様はとんでもない事を口にしたのであった。まさかの、"記憶喪失"で衝撃が強かったからか、間抜けな声を出してしまった。
そんな、右往左往している私に九条様は宥めるように言った。
「落ち着け。一応聞いておくが名前以外で覚えている事は無いか?」
「お腹が空いていることは覚えています。」
「…それは、記憶ではない」
「ですよね。」
しゅんと肩を落とした。
なぜだか、胸の奥が締めつけられた。
「……。」
九条様は呆れたように息を吐くと、また話を続ける。
「分かった。では―。」
「九条隊長!!ご報告です!!」
次のひと言を出そうとした瞬間、九条様ではない違う人の声により遮られてしまった。
「天照大神様がお呼びです。今すぐ本部へと。」
私は、九条様の、顔をちらりと見る。九条様の顔が一瞬、強張ったように感じたからだ。
「そうか。すぐに向かう。…悪いが君も、ついて来てくれ。」
「へっ!?」
断りを入れようとするが、お腹に圧迫感を感じた。
そして、ふわっと視界が持ち上がった。視線がいつもより高いことに気づく。
「………あの」
「なんだ?」
「私、今どうなっています?」
私は、どこか遠い目をしながら今の状況を確かめるように聞いてみた。
「担いでいる」
男は平然と答えるのであった。動きをとめる気配はない。私にも、色々と思うことはあるが一番頭に残っているのは
(お粥が食べたい)
それだけだった。
「…ごめんなさい。親切な看護師さん。」
少女は、独り言のように嘆くのであった。