忘却華の契約婚

昔話

(どうしたものかな)
桐谷は思案を巡らせていた。
悩みの種である件の少女は、今や桐夜の肩に担がれ、不承不承といった様子で揺られている。
まさか、保護した少女一人に、これほど頭を悩ませることになるとは。
桐夜は小さく嘆息した。


◆ ◆ ◆
人間と妖かし、そして神々が存在する大和皇国。 
この國には、帝国退魔部隊と呼ばれる国家直属の組織が存在する。
その任務は、人々に害をなす邪妖を討伐し、國の安寧を守ること。
入隊を許されるのは、卓越した霊力や神通力、身体能力、そして知略を兼ね備えた選ばれし者のみである。
命を賭して邪妖と対峙するその職務は、常に危険と隣り合わせだ。しかし、それに見合うだけの名誉と報酬が約束されているため、入隊を志願する者は後を絶たない。
もっとも、誰もがその狭き門をくぐり抜けられる訳では無いのだが。

今から100年前の話。
かつて邪妖は、妖かしと呼ばれいた。当時の妖かしたちは、霊力こそが、人間を襲うような真似はしなかった。
――言い方を変えれば、人間と妖かしは、助け合い支え合うほどに良好的な関係で"あった"とでも言おうか。

しかし、ある時の事件を境目に、ある特定の妖かしたちは、人間から"邪妖"と呼ばれ疎まれるようになった。

それは、ある村の人間たちが妖どもによって大量虐殺された事がきっかけである。
容疑をかけられた妖たちは、殺していないと否定していたが人間は、誰一人信じようとしなかった。
その村で唯一、一人だけ生き残った少女が
「皆が、妖どもに殺されてた!!」
と、涙を流し、ヒステリーを起こしながらそう証言したそうだ。
この証言が、決定的な証拠として、容疑をかけられた妖どもは処刑された。

こうして、妖と人間は対立するようになったのだ。
さらに、大和皇国の最高権力者で、
國を治める太陽の神
"天照大御神"は元々は、妖と人間を平等に扱っていたが、人間に肩を持つようになった。
天照大御神は、妖を嫌うようになり、それと同時に国民たちも妖を嫌うようになった。

国民たちからの差別や暴行を受け、耐えきれなくなり暴走した妖を邪妖と呼び、討伐の対象となる。
これが、現在に繋がっているのだった。

(もう少し、詳しく事件の真相を突き止めれば良かったものを)

桐夜は、少女を肩に乗せながら、思った。
そして、少女を下に降ろし、目の前の馬車に乗るように促す。
少女は、いぶかしげにゆっくりと馬車に入った。
記憶を失っているそうなので、初めてかそうじゃないかは分からないが、ゆくゆくと、初めて乗ったかのように、目を輝かせていくのであった。

ふと、何故詳しく調べなかったのか、生き残りの少女の言葉だけを信じたのか、妖たちの言い分を聞かなかったのか、と先ほど考えていた事が淡々と頭によぎる。
そして、理不尽な人間どもと、同じ部類に分類されることにも腹が立った。
(私も、人のことは言えないがな。)

桐夜は、拳を握りしめると、ゆっくり力を抜いた。
今は目の前のことだけを考えればいい。
目の前の少女の事を考えると、どうしても考えてしまうのだった。

(この娘も、難儀なことだ。)

天照大御神は、今回の事件に相当ご立腹のようだ。過去に、村の者たちが虐殺された時と同じ様な怒りを感じる。

今、自分の目の前にいる少女は、森で倒れていた。桐夜が保護する以前の話で、少女の周りには大量の死体が転がっていた。
かすかに、霊力が残っており、異能を使った犯行だと考えられている。
現在、捜査班が微かな霊力の主を探している最中だが、少女がやった事であろうと考えられている。
つまりこの少女は、容疑を掛けられているのだ。

桐夜は、そっと目の前で座っている少女を見る。
少女は、馬車の窓から顔を出し、景色を楽しんでいるようだった。

知らないほうが幸せ、まさにこういう時の事を言うのだなと思った。
知っていたら、この少女は、景色を楽しむ余裕など無いであろうから。
(もうしばらく、黙っておこう。)

 ―― これから、少女が処刑されるという事実を
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