【完】幼なじみは狐の子。〜黒白王子の三角関係〜番外編

 


 講堂は大入り満員になった。
 翔や律の撮影もあるからか、講堂には西中生徒ではない一般人の女の子達の姿も多かった。

 扉が閉め切られて、一度明かりが消された。

 一瞬の静寂の後、舞台がいきなり盛大に下からライトアップされる。

 舞台の上の伊鞠が音頭を取った。


「いざ、姫と黒白王子の撮影会、始まります!」


 割れるような盛大な拍手に包まれた舞台に、袖からふらりとサングラスの翔が上がってきた。


「翔くん、被撮影者は舞台の下へ」

「やってん駒井さん、僕用事あるきに」


 翔はサングラスを取ると伊鞠を追い払って、舞台の真ん中で式典用の教卓に両手を付いて、大入り満員の講堂を見渡した。


「こんちは。綾瀬翔です。」


 いつもと同じ明るい声で翔が口を開く。
 いつもと違って標準語である。
 袖口の恋は嫌な予感がした。

 
「僕は黒白王子じゃないけど、その友達として、新田さん繋がりで今日この場に居ます」

 
 翔は舞台慣れしているのだろう、淀みない口調で滔々と話す。


「……僕は、撮影会の前にちょっと知って貰いたい事があるきに、この場をお借りしました。」


 一旦言葉を切った翔。


「あやかし狐って、何のことか分かりますか?」


 舞台袖で宗介と美風が顔を見合わせた。
 恋は背中を冷たい汗が伝うのを感じた。


「あやかし狐とは、あやかしの狐のこと。」


 翔は続ける。


「めっぽう美人で魚好き。古来から脈々と続いた種族。人に交じりながら、こっそり生活してるんです。」

「……」


 宗介が舞台袖から悔しそうに翔を睨んだ。


「そんなあやかし狐、皆さんの近くにいたらどう思いますか?。これは実際の話やで。おどろの化け狐の事、どう思いますか?」

「ひどい!」


 突然、後ろから叫び声がして恋が振り向くと、栄が拳を握りしめて、唇を噛み締めて立って居た。

 驚いたのは束の間だった。
 栄は突然つかつかと舞台上に出ていくと、翔と並んで、翔が教卓に置いていたマイクを取った。


「こんにちは。モデルRitsuの姉、向井栄です」


 栄は厳しい表情のまま口を開いた。


「あやかし狐について一言言わせてください。あやかし狐は、おどろの化け狐なんかじゃありません。友好的な、平和な狐です。」

 
 翔はちょっと驚いた顔をして黙っている。


「あやかしとして疎んじられていた過去から、あやかし狐は自然人から姿を隠すようになりました。本当はもっと人と仲良くしたいのに、そうさせて貰えない」

「姉さん」



 袖から律が困った顔をしている。


 栄は一呼吸置くと意を決して言った。


「何を隠そう私もモデルのRitsuも、黒白王子の姫も、あやかし狐です」


 そう言ってから、栄は静かに「解」と言った。


 突然、段上で変身した栄に、講堂がどよめいた。

 オレンジ色の狐の栄はぴょこんと一回転すると、また人の姿に戻った。


「すごい!」


 袖から理央が叫ぶと、律が諦めた様に、


「僕もできますよ」


 と言って、どろん!と狐の姿になって、舞台に上がって行った。


「モデルのRitsuです」


 狐の姿から人へ白い煙を上げて変身した律がマイクを取った。



「僕もあやかし狐です。でも、決して人の敵ではありません。」


 講堂は大騒ぎになった。


 狐に向かってカメラを向ける者、ケラケラ笑い出す者、ヒステリーを起こして「嘘お」と叫んでいる者。

 舞台袖で恋が立ち尽くしていると、理央が口を開いた。


「恋、恋もあやかし狐なんでしょう?。なんで今まで教えてくれなかったの?」

「それは……」

「狐に変身するなんて凄い。律ちゃんも栄さんも狐かあ。上野くんたちは知ってたんだね」

「理央、友達があやかし狐って嫌?」


 恋が迷ってから聞くと、理央はにこっと笑ってこう答えた。


「ぜーんぜん!。むしろ嬉しい。迫害されたら私守るよ、恋のこと。」

「新田恋!」


 うららが袖からやって来て声を掛けた。


「道理であんたは容姿が綺麗過ぎると思った。やっぱりあやかしだったんだね。」

「黄崎さん……」

「美風様は譲らないけど、頼ってくれていいよ。あやかし狐っていう理由だけで意地悪する人、私大嫌いなんだから!」

 
 うららは言葉を切ると言った。

 
「予定変更!。今日は黒白王子と狐の撮影会だよ。盛大にやろう!」

「恋、おつかれ」


 舞台袖に撮影会に呼ばれて来ていた明日香が顔を出した。


「やっぱり狐だった。私そうだと思ってたもん。なんで私達に隠してたの?」

「明日香……」

「講堂、大騒ぎだよ。親衛隊達が、今栄さんの写真撮ってる。恋も行こうよ。」



< 67 / 69 >

この作品をシェア

pagetop