たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?
「どうも。この間ぶりだな。ひどいじゃないか。何も言わずに帰るなんて」
男は、私よりも頭一つ半くらい大きい。
身長は、恐らく百八十センチ以上あるように思える。
しかし、それよりも今は――。
「きゃっ。ラッキー♡ 朝から東堂社長を見られるなんてっ」
「あの人……どこの課の人?」
「さぁ、見たことないから、今日研修で来た人じゃない? っていうか、どうして“あんなの”が東堂社長と話せるわけ?」
周囲にいる女性社員がヒソヒソと話している声が耳に突き刺さる。
男の耳には届いていないのか、彼は笑みを浮かべたまま微動だにしない。
自分の容姿は、よくも悪くも普通だと思っている。
けれど、彼のように端正な顔立ちの人と並べば“あんなの”と言われ心をグサリとえぐられる。
「え……ちょっ……」
「キミ……いや、南田春香さん。これ、探してるんでしょ?」
私に話しかけないで――そう牽制しようとしたら、彼の手には私の社員証があった。
「なっ……! それ!」
「これね、キミがホテ――」
「わーっ! ちょ、ちょっと! こっちに来てもらえます……!?」
恐らく、ホテルの部屋に忘れていたと続けようとしていたのだろう。
刺さるような女性社員の目があるところで、そのような発言をされれば、私の身が危うい。
近くに人目に触れなさそうな物陰を見つけると、指さした。