たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

(どう、しよう……社員証を失くしたら……!)
始末書どころの騒ぎではないのだ。
東京では、巣鴨食品とは何の会社かピンと来るものはいないだろう。
しかし、もし東堂コーポレーションの子会社で、入館証と知っていたら――簡単に入れてしまう。
これは、情報漏洩――コンプライアンス違反に該当し、それなりの処分が下ってしまう。
親会社でそのような迷惑をかけてしまったと分かれば、解雇も免れないだろう。
不安でたまらず立ち尽くしていると、受付をはじめ、周囲の社員たちが一斉に立ち上がる音がした。
一瞬で音が静まった。

「「「おはようございますっ。社長」」」

社員たちが一斉に、声を揃える。
(え……?)
社員証を失くしてしまったことも忘れそうなほどだった。
思わず、声のした方を振り向くと――。

「あの人……」

思わず、ボソリと声を漏らした。
あの日のイケメンが、スーツ姿の男たちを従えて歩いているのだ。
思わずその光景に目を奪われていると、男と目が合った瞬間、彼はほんの少し目を見開いた。
そして次の瞬間には、嬉しそうに口元を緩めた。

「先に行っててくれ。俺はちょっと」

そう声を掛けると、他の男達が入館証をスキャンしてぞろぞろと中へ入って行く。
そして、男だけが私の前に立ち、にっこりと笑みを浮かべた。
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