たしかにお姫様に憧れたことはあるけれども、一夜の過ちから親会社の若社長に「キミ以外あり得ない」と溺愛されるなんて、ありえないですよね?

「どうした。朝からこんなところへ連れ込むなんて、随分と大胆だな」
「変な言い方しないでください……! あの」

そう言って、彼に手を差し出す。
けれど、彼は不思議そうに小首を傾げた。

「社員証。返してください」

改めてそう告げると、男はくすりと小さく笑った。

「嫌だ」
「なっ……!」

返すために、あれほど大勢の前で見せびらかしたのではないのか。
そう言いそうになったけれど、返してもらう立場のため、大きな態度をとることはできない。

「そもそも、南田さん。社員証を失くすなんて、自覚が足りてないだろ」
「っ……」

というか、この人――東堂“社長”と呼ばれていた。
東堂。
社長。
東堂コーポレーション。
……ん?

「えっ……社長?」

重大な事実に気付くと、今度はサッと血の気が引いて、頭がくらっとした。
すると、彼は喉を鳴らしながらククッと笑った。

「南田さん、面白いよね。さっきまでは凛としてたのに、今度は顔真っ青だよ?」
「あ、あの……偉そうな態度を取ってしまい、申し訳ありません……私、どう……なりますか?」

社長から直々に処分を言い渡される機会など、ないだろう。
何を言われたとしても、自業自得。
そう理解して、グッと拳を握りしめた。
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